マンションを購入して長らく住んでいると、修繕積立金が当初の金額よりも値上げされることを経験する方が多いと思います。どうして修繕積立金は数年ごとに値上がりばかりするのでしょうか? 疑問に思った事はありませんか?この投稿では、修繕積立金が継続的に値上がりする理由について述べています。
1.修繕積立金の適正額を知る
マンション購入時、住宅ローンの金額、税金、管理費及び修繕積立金を計算してこれなら何とかやりくりできるだろうと購入を決定したにもかかわらず、数年経つと修繕積立金の額が値上げされた。当初の予定は多少狂ったが、これぐらいなら何とかやりくりできると我慢をしていると、さらに数年が経ち、今度は大幅に修繕積立金が値上げされた。などというようなことは、よくあります。
災害により建物が損傷して想定外の修繕が必要になったというのならまだ理解はできますが、そのようことが全く起こっていないにもかかわらずどうして毎回修繕積立金が値上げばかりされるのでしょうか?
実は、修繕積立金は値上がりしているというよりは、本来必要とされるべき適正額に近づけられているだけなのです。分譲当初、販売促進のため当初の修繕積立金を適正額より大幅に下げて販売されるケースがほとんどです。当初設定されている修繕積立金の金額は、将来必要になるであろう金額を合理的に見積もって算出されたものではなく、販売業者の論理によって決定されたものに過ぎません。これを段階増額積立て方式といいます。しかし、そのままでは当然大規模修繕を行う事はできないので、居住開始後徐々に値上げをして積立金の金額を増やしているのです。その結果、当初の低く設定された積立金の金額と、適正な金額の差額は将来の支払い額に転嫁されることになります。これが年数を経るごとに修繕積立金が値上がりしていく原因です。
それでは一体修繕積立金の適正額はいくらになるのでしょうか?これを知ることによって、現在の修繕積立金の支払い額との差額を計算し、将来的にどれ位負担が増えるのかをあらかじめ予想することができます。修繕積立金の適正額については国土交通省が「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の中で全戸数と延床面積ごとに分類して算出しています。の中で全戸数と延床面積ごとに分類して算出しています。。

令和3年9月改訂
(計算例)
建物全体の延床面積が20,000㎡以上のタワマンで、専有部分の床面積が100㎡の場合。上の表から修繕積立金の月額平均は338円/㎡ですので、専有面積の100㎡をかけると月額33,000円が適正額の平均となります。これはあくまで平均額ですので、マンションのグレードによって240円/㎡〜410円/㎡の範囲で異なります。
上記の計算例で月額適正額を33,000円/㎡、実際に支払っている月額が23,000円である場合は、差額の10,000円に現在までの経過月数を掛けることによって、将来負担の金額が計算されます。仮に現在、新築購入後5年が経過している場合、10,000×12 ヶ月×5年=600,000円が将来の負担増(将来に対する負債)となります。
2.修繕積立金はいつ値上げされるか?
修繕積立金の値上げは通常5年ごとに行われる「長期修繕計画書」の見直しのタイミングで行われることが一般的です。長期修繕計画とは、10年後、20年後を見据えて、マンションを定期的に修繕する計画のことで、約25~30年スパンで計画し、約5年ごとに見直しを行うように、国土交通省の「マンション標準管理規約」で推奨されています。
この5年ごとの見直しの中で修繕積立金の金額の見直しも行われ、管理組合の総会の普通決議(過半数)を経て増額が決定されます。築5年後に行われる1回目の見直しでは、マンションもまだ新しく、修繕に対する組合員(区分所有者)の意識も低いため、増額が行われないこともありますが、10年後に行われる2回目の見直しにおいては、最初の大規模修繕(通常12年から15年後に行われる)が行われるべき時期が近づいているため、通常は値上げ決議が行われるることになります。しかも、5年後の第1回目の見直しが行われなかったマンションでは、この第2回目の見直しタイミングでは、大幅な値上げにならざるを得ないことになります。
3.修繕積立金と資産価値の関係
修繕積立金の値上げは、投資の実質利回りを低下させますので、資産価値のマイナス要因となります。仮に実質利回り4%のマンションで月額10,000円の修繕積立金の値上げが行われた場合、資産価値は3,000,000円下がることになります。このように、修繕積立金の値上げはマンションの資産価値にきわめて大きなマイナスの影響をもたらすことになります。
このことは、マンションを売るタイミングを考える場合に非常に重要な要素となります。1回目の大規模修繕工事は、建物の老朽化もそれほど進んでいないため、2回目の大規模修繕工事に比べると比較的低いコストですむ場合が多いです。そのため、1回目の大規模修繕工事の後は、2回目の大規模修繕工事に備えるために修繕積立金の金額がいつ大幅に値上げされてもおかしくない時期となります。このことから考えれば、もしマンションの出口戦略を考えているのであれば、1回目の大規模修繕工事によってマンションの見た目がきれいになり、しかも修繕積立金の大幅値上げが行われる前、つまり1回目の大規模修繕工事が行われた直後がマンションのマンションを売る良いタイミングであると言えます。
同様に、買う場合にも修繕積立金の値上げ決議については十分調査し、注意しなければなりません。値上げ決議は年一回開かれる通常総会で決議されるのが普通ですが、臨時総会で値上げ決議が行われる場合もあります。その場合は、タイミングによっては「重要事項に係る調査報告書」(注1)に記載されていな場合もあるので、契約締結直前まで議案書(注2)には注意を払う必要があります。仮に、契約締結前に修繕積立金の値上げを知らずに契約し、買った直後に値上げが行われれば、買手は大損をすることになりますし、売主側も買手に知らさずに契約締結をした場合は買手から損害賠償訴訟を提起される可能性があります。それくらい、修繕積立金はリアルタイムで資産価値に大きな影響を及ぼす極めて重要な要素であることを認識しておく必要があります。
(注1)
「重要事項に係る調査報告書」とは、マンションを売買するときに使われる、そのマンションの情報が細かく記載されている書類です。 とても大切なことが書かれている報告書なので、マンション購入時には不動産会社に必ず見せてもらうべき書類のひとつです。
(注2)
総会が開かれる場合には、遅くとも2週間前までには組合に対して決議予定の議案が書かれた議案書が提出されるはずであるから、売主は契約締結前に議案書が届いた場合には、仲介業者を通じて買主にすぐに知らせなければならない。
4.マンションの管理組合と管理会社の関係
マンションの管理組合は、理事も持ち回りで、マンション管理に対する組合員の意識も低いことが多いです。そのため、マンション管理に関しては、管理会社に丸投げをしている場合が多いです。管理組合がこのような場合、管理会社は大規模修繕工事を関連会社などに発注し大幅な利益を取ることもできます。
このことも、修繕積立金の金額を考える上では非常に重要となります。組合員が積極的に長期修繕計画に検討を加え、大規模修繕工事の金額を減らすことによって、修繕積立金の金額を減らすこともできるからです。多数の組合員(区分所有者)がいるマンションで組合員の意識を上げる事は難しいですが、外部の専門家の力を借りるなどして、管理会社に丸投げするようなことだけはやめた方が良いと考えます。丸投げの代償は間違いなく組合員全員に跳ね返ってくることになります。
5.まとめ
修繕積立金がマンションを所有したり、売買を行う上で極めて重要な要素であることを説明してきました。修繕積立金を理解せずして、マンションを購入したり、マンション投資を行う事は、極めて危険であることが理解されたと思います。
マンションを終の棲家として購入されたとしても、 将来の経済的負担の増加を少しでも軽減するために管理組合には積極的に参加することが重要になります。マンションにおける区分所有と言う所有形態は、区分所有法と言う法律によって規定される極めて特殊な所有権です。すなわち、通常の所有権が使用・収益・処分において完全に自由であるのに対して、区分所有権の場合には、他の区分所有者との利益調整の必要性から、非常に多くの制約を受けている所有権です。その1つが修繕積立金です。マンションの区分所有者は法的に組合への強制加入が義務付けられ、修繕積立金は、マンションを所有する限り逃れることができません。またその金額や支出のタイミングも、組合の決議によって決められることから、管理組合の活動に無関心である事は究極的には、自己の経済的負担となって跳ね返ってくることになります。
また、マンションを終の棲家としてではなく、適当なタイミングで売却を考えている場合にも、管理組合の活動内容を日ごろから把握し、修繕積立金の値上げの時期を予測することによって、売却価格に大きな違いが生まれることも説明してきました。やはりこのような場合でも、マンションを所有している限りにおいては管理組合の動きは日ごろから注意を払っておくことが極めて重要になります。
コメント