1.借地権付建物とは
借地権付建物とは、借地権に基づく土地の賃借権(ここでは地上権は考えない)と建物の所有権を伴う建物です。借地権に基づく土地の賃借権は敷地利用権とも呼ばれます。ここで問題となるのは、借地権が譲渡される場合には、借地権設定者(地主)の承諾が必要になるということです(民法612条:賃貸借の譲渡及び転貸の制限)。つまり、ここで登場するのは次の4者となります(簡単のため仲介業者は一社のみと仮定します。いわゆる両手仲介)
・売主(借地権付建物の所有者、借地権者)
・売主に土地を貸している地主(借地権設定者)
・不動産仲介業者
・買主(借地権付建物を売主から買おうとしている者)
2.売買契約までの手順
借地権付建物の売買を完結するために必要な手順は次のとおりです。
(手順1)地主から売主を名宛人とした借地権譲渡承諾書の発行
(手順2)売主と買主間での売買契約締結
そして、重要なことは、借地権譲渡承諾書の中には、
(1)譲受人(買主)の住所・氏名
(2)借地条件
(3)譲渡承諾料の金額(名義書換料)及び支払期限
の3つの事項が明記されていることです。特に譲受人の住所・氏名が記載されていることが絶対条件になります。契約の締結は必ず借地権譲渡承諾書が発行されたことを確認してからにしなければなりません。仲介業者の中には、地主からは借地権の譲渡を承諾してあるから大丈夫だと言って取引を進めてしまう業者がいますが、これは絶対にしてはなりません。もし売買契約締結後に、地主に相続等が発生して、相続人が借地権の譲渡を承諾しない場合には、後に述べる法的手段を取らなければならなくなります。これは時間的にも経済的にも大きな負担となるので、借地権譲渡承諾書を売買契約の締結前に必ず取ることを覚えておきましょう。
3.地主が借地権譲渡を承諾しない場合の対抗手段
賃貸借契約の中でも、いわゆる借地契約の場合には、借地人が借地上の建物を第三者に譲渡することにつき賃貸人が承諾しない場合は、裁判所は、借地人の申立てにより、賃貸人の承諾に代わる許可を与えることができるという、いわゆる借地非訟制度が設けられています ( 借地借家法19 条1項)。
借地借家法19条第1項では、
「借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転貸をしても借地権設定者に不利となる恐れがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡または転貸を承諾しないときは裁判所は借地権者の申し立てにより借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。」
としている。したがって借地権付き建物を地主の譲渡承諾を得ないで契約を締結し、契約締結後仮に地主によって承諾を拒否されたとしても、上記の通り一応の救済措置はある。しかし、裁判所に申し立てをして借地権設定者に代わる借地権の譲渡許可を得るためには、経済的にも心理的にも時間的にも負担がかかる。したがって、基本的には借地権譲渡承諾書を取れる場合にのみ売買契約を締結すると考えたほうが一般的には得策と考えられる。
3.譲渡承諾料(名義書換料)
借地権譲渡の承諾料は名義書換料とも呼ばれ、法律に根拠があるわけではないが、慣行的に広く行われている。そして、一般的な相場としては、東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、「借地権価格」の5%から15%くらい、地方都市ではその半分くらいである。もっとも、地主はその借地権譲渡を承諾する法的義務があるわけではないが、承諾料の金額をめぐって交渉が決裂した場合には、裁判所に借地非訟手続の申立をせざるを得ない。借地非訟手続では、ほとんどのケースは「借地権」の価格を基準として、上記相場内の承諾料を決定している。したがって、交渉が決裂する前に、そのことを地主に説明して理解してもらうことが肝要である。仮に交渉が決裂して、裁判所の判断を仰ぐこととなっても、結果は同じであるから、買主にとっても地主にとってもメリットはなく、単なる時間的経済的なロスが生じるだけなのである。
4.まとめ
借地権付き建物を売買する場合に注意すべきことについて述べてきた。その中で、借地権付き建物の売買においては、売主と買主以外に地主と言うプレイヤーが参加してくるために、譲渡承諾書を売買契約の前に取得しておくことが重要であることを述べた。手続きの順番が非常に重要なのである。仮に仲介業者が、地主の承諾は既に取ってあるなどと説明していても、それはあくまで地主と仲介業者の間でのことなのであって、買主を承諾したこととは全く関係のないと言うことを認識しなければならない。仮に地主が、買主を承諾していたとしても、売買締結後に地主に相続が発生し、相続人が借地権譲渡の承諾を拒否する場合もある。そのような異例の事態に備えるためにも、譲渡承諾書は不可欠である。
また、地主が借地権の譲渡を承諾しない場合の法的救済の道についても述べた。地主が借地権譲渡を承諾するかしないかはあくまでも地主の自由なのであるから、譲渡を拒否することも充分起こり得る。しかし、法は、借地権契約の場合には、建物という多額の投資をしている賃借人の立場を保護するため、地主が特に不利益になる事情がないにもかかわらず、譲渡承諾を拒否した場合に、賃借人を救済する法的制度を用意してあることを説明した。
さらに、借地権譲渡承諾料(名義書き換え料)の相場についても述べた。仮に借地権譲渡承諾料の金額をめぐって買主と地主とのあいだで交渉が決裂した場合にはやはり、借地非訟手続きを利用して裁判所の判断を仰ぐことになる。この場合には、結局のところ借地権相場に準じた判断が下される可能性が高いから、金額をめぐって買主と地主との間での交渉が決裂する事は両者にとって得策ではないことについても述べた。買主として地主と交渉する場合には、この点について地主の理解を得るように交渉することが良いと思う