1.タワマン節税とは
不動産を用いた節税とは、実際の売買価格(時価)が固定資産税評価額や相続税評価額よりも低くなることを利用して節税を図るものです。特に東京都心にあるタワーマンションの場合には、売買価格(時価)よりも固定資産税評価額や相続税評価額が大幅に下回ることから、タワマン節税とも呼ばれています。
実際には、時価2- 3億円の東京のタワーマンションの固定資産税評価額が2 -3千万円と10分の1程度になる場合もあります。その理由は、固定資産税評価額は、建物の材料や施工方法による加点方式で評価額を決めているため、その物件の物件の人気度や希少性が全く評価に反映されないためです。
例えば、タワーマンの場合、高層階が人気があり、また希少性も高いことから価格が高いのですが、固定資産税評価額の観点からは、地上階も最上階も同じ基準で評価されるため、最上階のようなプレミアムのつく物件については、固定資産税評価額の節税メリットが非常に大きくなります。(ただし、平成29年度税制改定)
例えば、2億円の資産を現金で持っていれば、相続税は、2億円が課税対象になりますが、その現金2億円を不動産に替えておけば、場合によっては2千万円しか課税対象にならないという事態が起こり得るということです。
また、タワーマンションの場合は、相続税だけでなく、固定資産税も非常に有利になる小規模住宅用地の特例 (200平米以下の場合、固定資産税が1/6になる) があります。マンションの土地所有面積は建築面積ではなく、マンションの敷地を、全体の戸数で割ったものとなりますので、タワマンの場合には、ほぼ100%、土地の固有資産税固定資産税が6分の1になります。
マンションの評価額は、土地と建物が別々に計算されます。総戸数が多いマンションほど、各戸の土地の持分は小さくなるので、土地の評価額は小さくなります。また、建物は同じ専有面積であれば低層階でも高層階でも評価額は同じですが、市場価格は高層階ほど高額なので「タワーマンションの高層階」ほど大きな節税効果があります。
2.タワマン節税のリスク
価格変動リスク
タワマン節税は、マンションの市場価格が変わらないことが前提となります。もしマンションの価格が購入後大幅に下落すれば、マンションを売っても損をすることになります。その場合、相続税が大幅に下がったとしても、財産はそれ以上に減ってしまうリスクがあります。
課税強化の動き
今年2022年4月19日に相続税評価額をめぐる争いについて最高裁の判断が下されました。それによると、通常の相続税評価額を決める方法である相続税路線価 (土地) や固定資産税評価額に基づく相続財産の評価額が「実質的な租税負担の公平を著しく介すると認められる場合」には、税務当局の判断により不動産鑑定士による鑑定評価額をもとに相続税評価額を決めるとしても違法ではないとしています。不動産鑑定士が不動産鑑定評価基準によって資産を相続した場合には、相続税路線価や固定資産税評価額に基づく資産評価額よりもはるかに高くなるのが一般的です。
裁判では、路線価と固定資産税評価額に基づく評価額をもとに相続税の申告をした原告に対し、税務当局が不動産鑑定士による鑑定評価をもとに構成処分を下した事の適法性が争われました。原告の申告書では、基礎控除の結果、相続税はゼロでしたが、更正処分に基づく相続税額は約2.4億円となりました。
この判決の結果、税務当局が財産評価基本通達に基づき、当局の判断で、相続税評価額を変えることに最高裁判所がお墨付きを与えたことになります。したがって、従来のタワーマン節税のスキームに基づく節税方法は、今後大きなリスクを負うことになります。
*判決文はこちらを参照
平成29年度税制改定による固定資産税評価方法の改正
平成29年度の税制改正で、2018年度からタワーマンションの固定資産税の計算方法を見直すことになりました。
高さ60mを超える居住用建築物の固定資産税、都市計画税、不動産取得税が、従来、面積が同じであれば、階層がどこの階層でも税額が同じでしたが、2018年度から新たに課税されることとなる居住用建築物については、上層部になればなるほど税額が増えることになり、一方、低層階の固定資産税は下がることになります。この改正により、高層階ほど節税効果が大きかった従来のスキームは使えなくなりました。
ただし、2017年4月1日前に売買契約締結のものは改正適用除外(特例)となります。また、2017年以前に完成しているタワーマンションであれば、2018年以降に中古で購入してもやはり、以前のままです。
3.まとめ
不動産を使った代表的な節税スキーム、いわゆるタワマン節税について、その仕組みとリスクについて説明しました。
特にごく最近2022年4月19日に出された最高裁の判断が、この節税スキームにとって将来的には大きなリスクとなることを表しています。この節税スキームを使う場合には、専門家と相談し従来以上に慎重な姿勢をとることが重要になります。
また、アベノミクス以降10年以上の期間にわたり不動産の価格は一方的に上昇傾向を保持していきますが、今後の金融政策の変化によってはこの上昇傾向が反転すると言うリスクも考えなければなりません。その場合には、節税のためだけに不動産を購入して相続税を減らしても、資産下落による評価損が節税の節税額を上回れば、結果的に損をすることも説明しました。したがって、節税のためだけに不動産を安易に購入する事はお勧めしません。
特に来年2023年4月には、日銀の黒田総裁の任期が切れ、新しい日銀総裁が誕生することになります。これにより場合によっては従来の金融緩和策が大幅に変更し、不動産価格の傾向にも大きな変化が起こる可能性があることにも注意しなければなりません。
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