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工学修士の不動産専門行政書士が不動産を法律・金融・科学技術の視点から分析する「不動産ラボ」
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企業の危機管理担当者必見。両毛運輸の事例から学ぶ、会社の法的責任と実務対応策【行政書士が解説】

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目次

I. 伊勢崎市の悲劇:事実関係と刑事手続きの時系列

本章では、後続の法的分析の基礎となる、事故の正確な事実関係と刑事手続きの経緯を時系列に沿って整理する。

1.1. 事故概要:国道17号線上の衝突

2024年5月6日、群馬県伊勢崎市の国道17号線(上武道路)において、両毛運輸に所属する運転手、鈴木吾郎被告(当時69歳)が運転する中型トラックが中央分離帯を乗り越え、対向車線を走行していた乗用車と正面衝突する事故が発生した 1。

この衝突により、乗用車に乗っていた一家3名、塚越湊斗ちゃん(当時2歳)、その父親である寛人さん(当時26歳)、そして祖父の正宏さん(当時53歳)が死亡した。また、同乗していた他の2名も負傷するという甚大な被害をもたらした 1。この悲劇的な結果は、社会的な関心を呼び、その後の刑事訴追および企業責任の追及に対する厳しい視線へと繋がった 4。

加害者である鈴木被告自身も事故で負傷し、病院に搬送された後、退院した2024年8月20日に逮捕された 1。

1.2. 運転手の行動:アルコール検知義務の意図的な回避

本件の悪質性を際立たせているのは、運転手が会社の安全管理体制を意図的に潜り抜けて飲酒に及んだ点である。

  • 出庫前の点呼: 鈴木被告は、勤務先である両毛運輸において、乗務前のアルコールチェックを受けており、その時点ではアルコールは検出されていなかった 1。
  • 乗務中の飲酒: しかし、その後の捜査で、被告が点呼を通過した後に飲酒していたことが明らかになった。被告のトラック車内からは、焼酎の空き瓶が複数本押収されている 7。事故後の血中アルコール濃度は0.3mg/l(呼気中アルコール濃度0.15mg/lに相当)であり、これは道路交通法が定める酒気帯び運転の基準値に該当する 5。被告は約440mlの焼酎を飲んでいたと報じられている 5。
  • 直接証拠の不存在: ドライブレコーダーには飲酒行為そのものは記録されておらず、警察は点呼後から運転開始までの間に飲酒したとみている 6。被告は逮捕後、事故を起こしたことは認めつつも「よく覚えていない」と供述している 6。

1.3. 訴追の道のり:逮捕から訴因変更へ

刑事手続きの過程は、検察の訴追判断と世論の動向が交錯する複雑な様相を呈した。

  • 当初の逮捕容疑: 鈴木被告は当初、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(以下、「自動車運転死傷処罰法」)違反、すなわち危険運転致死傷罪の容疑で逮捕された 1。
  • 当初の起訴内容: しかし、前橋地方検察庁は2024年9月、より法定刑の軽い「過失運転致死傷罪」で被告を起訴した 1。この判断は、遺族および社会から大きな反発を招き、遺族はより重い罪での処罰を求める署名活動を開始する事態に発展した 3。
  • 訴因変更: 世論の高まりと追加捜査の結果を受け、前橋地検は方針を転換。同年10月11日、前橋地方裁判所に対し、罪名を当初の逮捕容疑であった危険運転致死傷罪に変更するよう求める「訴因変更」の手続きを請求した 5。裁判所は同月16日にこの請求を認め、審理は危険運転致死傷罪を前提に進められることとなった 12。

この事件の捜査・訴追過程を分析すると、検察の戦略的な判断が透けて見える。事故発生(5月)から逮捕(8月)までの期間は、被告の入院が影響している 1。一方、逮捕後、検察官は最長23日以内に起訴・不起訴を判断しなければならないという時間的制約がある 5。危険運転致死傷罪の「正常な運転が困難な状態」という要件の立証は、単なるアルコール濃度だけでなく、蛇行運転などの客観的な運転状況の分析を要するため、時間を要する。そのため、検察はまず立証が比較的容易な過失運転致死傷罪で起訴して身柄を確保し、その間に危険運転致死傷罪の適用に必要な証拠(ドライブレコーダー映像の解析など 1)を固めるという戦術的判断を下した可能性が極めて高い。その後の訴因変更は、この戦略が結実したものであると同時に、厳しい処罰を求める社会の声 5 に後押しされた結果ともいえる。

II. 刑事責任:危険運転致死傷罪の深掘り

本章では、本件の核心である刑事責任について、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪の違いを法的に詳解し、立証のポイントを分析する。

2.1. 当初の訴因:過失運転致死傷罪の理解

  • 法的根拠: 本罪は自動車運転死傷処罰法第5条に規定される。
  • 構成要件: 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させる行為が処罰対象となる。運転手の過失によって死傷結果が生じた場合に適用される、交通事故の基本的な犯罪類型である。
  • 法定刑: 7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金。
  • 本件への適用: 飲酒後に運転し、死亡事故を起こしたという事実自体が「必要な注意を怠った」と評価できるため、本罪での起訴は法的に正当であった 1。しかし、点呼後の意図的な飲酒という悪質性を鑑みると、この罪名では国民の法感情に合致しないと受け止められた 5。

2.2. 罪名の加重:危険運転致死傷罪への訴因変更の法的分析

  • 法的根拠: 検察は、自動車運転死傷処罰法第2条第1号に規定される「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」に該当すると判断した 5。
  • 法定刑: 人を負傷させた場合は15年以下の懲役、人を死亡させた場合は1年以上の有期懲役となり、過失運転致死傷罪に比べて著しく重い。
  • 検察の判断理由: 訴因変更に際し、検察は「アルコールの影響によって正常な運転ができなかったという事実を認定できる」と判断したと報じられている 5。これは、単なる飲酒の事実を超え、その影響による運転能力の著しい低下を立証できるとの確信を得たことを示唆する。

2.3. 法的比較分析:過失運転と危険運転の峻別

専門家が両罪の違いを明確に理解できるよう、以下の表に主要な比較項目を整理する。

特徴(項目)過失運転致死傷罪危険運転致死傷罪(アルコール影響型)
根拠法条自動車運転死傷処罰法 第5条自動車運転死傷処罰法 第2条第1号
実行行為運転上必要な注意を怠る行為アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
主観的要件過失(結果発生の予見義務違反)故意(危険な状態で運転する行為自体の認識・認容)
立証のポイント注意義務違反の事実の証明「正常な運転が困難な状態」であったことの証明
法定刑(死亡時)7年以下の懲役・禁錮または罰金1年以上の有期懲役
BACの関連性注意義務違反を基礎づける一証拠重要な証拠だが、決定的ではない。運転状況などと総合的に判断される 14。

2.4. 「正常な運転が困難な状態」の立証:証拠上の課題と判例の動向

本件裁判の最大の争点は、「正常な運転が困難な状態」であったことを検察側が立証できるか否かにある。裁判所は、特定の血中アルコール濃度数値のみでこの状態を認定するのではなく、運転態様などを総合的に評価する 14。

  • 本件における主要証拠:
  • 運転挙動: 衝突前にトラックが急加速したり、蛇行したりしていたという後続車のドライブレコーダー映像や目撃証言 1。これは被告の運転能力が著しく低下していたことを示す客観的証拠として極めて重要である。
  • 物的証拠: 事故後の血中アルコール濃度0.3mg/lという数値と、車内から発見された焼酎の空き瓶 5。これらは飲酒の事実を裏付ける。
  • 被告人の供述: 「よく覚えていない」という被告の供述 6 は、弁護側は単なる記憶の欠落と主張するだろうが、検察側は記憶や認知機能を著しく損なうほどの酩酊状態にあった証左として主張する可能性がある。
  • 想定される弁護側の主張と検察側の反論 5:
  • 弁護側主張①: 「自分は酒に強く、運転能力に影響はなかった」5。
  • 検察側反論: 蛇行運転などの客観的な証拠 1 は、被告の主観的な認識とは無関係に運転能力が低下していたことを示している。さらに、被告が69歳という高齢である点 8 は、アルコールに対する生理的な耐性が低下していることを示唆し、この主張の説得力を著しく減殺する。検察は、高齢者のアルコール代謝能力や認知機能への影響に関する専門家の証言を求め、たとえ少量でも「正常な運転が困難な状態」に陥りやすかったと主張するだろう。
  • 弁護側主張②: 「血中アルコール濃度は低く、影響は軽微だった」5。
  • 検察側反論: 危険運転致死傷罪の成立に特定のアルコール濃度基準はない。約440mlもの焼酎を摂取した事実 5 から、事故当時には相当な酩酊状態にあったと推認される。客観的な運転の乱れと合わせて、測定された数値以上に運転能力が損なわれていたと主張する。
  • 弁護側主張③: 事故直前にあおり運転をしていたとの報道 5 に基づき、「事故原因は飲酒ではなく、あおり運転中の激高によるハンドル操作ミスだ」。
  • 検察側反論: アルコールの影響により抑制が効かなくなり、攻撃性が高まることは医学的に知られている。したがって、あおり運転行為そのものが、アルコールに起因する「正常な運転が困難な状態」の一つの兆候であったと反論することが可能である 5。

III. 企業の責任:両毛運輸の法的責任範囲の分析

本件事故は、運転手個人の責任に留まらず、雇用主である両毛運輸に対しても、民事・行政の両面から極めて重い責任を問いかけるものである。

3.1. 民事上の損害賠償責任:二重の責任構造

両毛運輸は、被害者遺族に対して、以下の二つの法的根拠に基づき、巨額の損害賠償責任を負うことになる。

3.1.1. 民法上の使用者責任(民法第715条)

  • 原則: ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。トラックの運転業務は、疑いなく「事業の執行」にあたる。
  • 立証責任: 使用者側が、被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたことを証明しない限り、責任を免れることはできない。運転手の常習的な飲酒が報じられていること 5、そして何よりアルコールチェックをすり抜けて飲酒されたという事実から、会社が監督注意義務を果たしていたと証明することは極めて困難である。
  • 判例: 過去の同種事案では、運送会社に対して数億円規模の賠償を命じる判決が下されている 16。

3.1.2. 自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任(自賠法第3条)

  • 原則: 「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)は、その運行によって他人の生命または身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。事業のために自社所有のトラックを運転させていた両毛運輸は、典型的な運行供用者にあたる。
  • 被害者側の利点: この責任は、使用者の監督過失などを厳密に証明せずとも、車両の運行によって事故が起きたことを証明すれば足りるため、被害者にとっては使用者責任よりも損害賠償請求が容易である。
  • 法的解釈: 「運行支配」(車両の運行を支配・管理できる地位)と「運行利益」(運行から利益を得ていること)が要件とされるが、判例はこれを非常に広く解釈している 18。本件は業務中の事故であり、両毛運輸の運行支配・運行利益は明白であるため、責任を免れる余地はない。

これら二つの法的根拠は、被害者救済の観点から企業に対して強力な責任追及を可能にする「挟み撃ち」として機能する。民事訴訟において、両毛運輸の法的防御は、責任の有無を争うことではなく、賠償額の算定に焦点を当てざるを得ない状況にある。

3.2. 運行管理者の役割と個人的責任

  • 法的義務: 運行管理者は、点呼の確実な実施、運転者の健康状態の把握、飲酒運転の防止など、輸送の安全を確保するための中心的な法的義務を負う 21。
  • 組織的な安全管理の欠陥: 点呼後に運転手が飲酒できたという事実は、個人の逸脱行為であると同時に、会社の安全管理システムそのものに重大な欠陥があったことを示唆する。点呼が形式的なものでなかったか、運転手の飲酒問題を会社が事前に察知できる兆候はなかったか 5 などが、捜査および行政監査の対象となる。
  • 個人的責任の可能性:
  • 民事責任: 運行管理者がその職務上の注意義務を怠り、それが事故の一因となったと認められれば、会社と連帯して被害者への損害賠償責任を負う可能性がある 21。
  • 刑事責任: 長野県軽井沢町のスキーバス転落事故では、ずさんな安全管理を黙認していたとして、会社の社長や運行管理者に実刑判決が下された 23。本件のような重大事故では、運行管理者の刑事責任(業務上過失致死傷罪など)が問われる可能性も否定できない。運転者が酒気を帯びていることを知りながら運転を命じる「下命・容認」があれば、管理者自身も刑事罰の対象となる 24。

3.3. 社内処分:懲戒解雇の法的妥当性

職業運転手が業務中に飲酒運転を行い、死亡事故を引き起こしたという事実は、懲戒事由の中でも最も重いものに分類される。企業の社会的信用を根底から覆し、事業の存続を危うくする行為であり、懲戒解雇の正当性は揺るぎない。過去の判例でも、バスやタクシーの運転手が私生活で飲酒運転をした事案ですら、その職業の特殊性から懲戒解雇が有効と判断されており 26、本件のような業務中の事案では、解雇の有効性が争われる余地は皆無に等しい。

IV. 行政処分:規制当局による事後措置

刑事・民事責任に加え、両毛運輸は事業の根幹を揺るがす厳しい行政処分に直面することが確実である。

4.1. 貨物自動車運送事業における行政処分の枠組み

  • 処分の端緒: 死亡事故や飲酒運転などの重大な法令違反があった場合、公安委員会(警察)から所管の運輸局(本件では関東運輸局)へ通知され、これを端緒として監査が実施されるのが一般的である 28。
  • 監査と違反点数制度: 運輸局は、貨物自動車運送事業法等に基づき、事業者の営業所に立ち入り、安全管理体制全般を監査する 29。監査で確認された法令違反にはそれぞれ点数が付され、その累積点数に応じて処分内容が決定される 28。

4.2. 両毛運輸への予測される処分:判例に基づく分析

本件は「死亡事故」と「飲酒運転」という、行政処分において最も重く評価される二つの要素が重なっている。したがって、極めて厳しい処分が科されることは避けられない。ある情報源は、具体的な処分として「関東運輸局、酒気帯運転で両毛運輸を事業停止10日」と報じているが 30、これは最終的な処分内容の一部に過ぎない可能性が高い。

このような重大事案では、監査が事故を起こした運転手個人に留まらず、営業所全体の安全管理体制の不備を徹底的に洗い出すため、通常、複数の違反事項が指摘される。その結果、違反点数は高くなり、処分も重くなる傾向にある。近年の関東運輸局による類似の重大事案の処分内容は、両毛運輸が直面するであろう未来を具体的に示している。

事業者名・営業所処分年月日監査の端緒主な違反内容処分内容違反点数
武州運輸・本社営業所 282025年6月3日酒気帯び運転乗務時間等告示違反、点呼実施義務違反、指導監督違反など12件事業停止3日間、車両停止175日車18点
関根運輸・本社営業所 282025年6月24日死亡事故乗務時間等告示違反、点呼実施義務違反、指導監督違反など4件車両停止50日車5点
吉藤運送・本社営業所 282025年6月24日死亡事故乗務時間等告示違反、点呼実施義務違反、事故惹起者への指導監督違反など7件車両停止40日車4点
日本郵便 282025年6月25日不適切な点呼の報告点呼実施義務違反、点呼記録の不実記載事業許可の取消し197点

武州運輸の事例は、飲酒運転を端緒とした監査が、結果的に多数の法令違反を明らかにし、事業停止を含む重い処分に繋がったことを示している。両毛運輸の事案は、これに死亡事故という要素が加わるため、同等かそれ以上の厳しい処分が下されると予測するのが合理的である。日本郵便の事業許可取消しは、点呼の不備という一点が組織的かつ広範囲にわたる場合、事業の存続そのものが認められなくなるという、規制当局の最も厳しい姿勢を示す事例として注目に値する。

4.3. アルコールチェック義務:法的要件と違反時の罰則

本件は、現行のアルコールチェック制度の限界と、その遵守の重要性を改めて浮き彫りにした。

  • 法的要件: 安全運転管理者は、目視等で運転者の酒気帯びの有無を確認し、アルコール検知器を用いてその結果を記録・保存する義務を負う(2023年12月より検知器使用が義務化)24。
  • 違反時の罰則:
  • チェック義務違反自体に直接的な罰則はないが、公安委員会から是正措置命令が出され、これに従わない場合は50万円以下の罰金が科される可能性がある 22。
  • 安全運転管理者をそもそも選任していない場合は、50万円以下の罰金が科される 24。
  • 飲酒運転の「下命・容認」は、事業者に対して14日間の事業停止といった重い行政処分 32、管理者個人に対しては刑事罰 25 に繋がる最も悪質な違反である。

この事件が示すのは、出庫前の「点」でのチェックだけでは、意図的な違反を防ぎきれないという制度的脆弱性である。この一件を契機に、将来的にはアルコールが検知されるとエンジンが始動しない「アルコール・インターロック装置」の導入義務化など、より実効性の高い再発防止策が業界全体で議論される可能性がある。

V. 結論と法務実務家への提言

5.1. 責任の総合的考察:刑事・民事・行政への連鎖的影響

両毛運輸の飲酒運転死亡事故は、運転手個人、そして企業が直面する責任が、刑事・民事・行政の各領域で密接に連鎖する典型例である。刑事裁判における有罪判決は、民事訴訟における過失の事実認定を決定づける。そして、刑事捜査で明らかになった事実は、行政監査の基礎情報となり、厳しい行政処分へと直結する。両毛運輸は、一つの領域での失敗が他の領域に波及する、多方面からの法的・規制的圧力に同時に晒されている。

5.2. 専門家への戦略的考察

本件は、異なる立場の法務・コンプライアンス専門家に対し、以下の戦略的視座を提供する。

  • 被害者側代理人弁護士へ: 損害賠償請求にあたっては、立証が容易な自賠法上の運行供用者責任を確保しつつ、民法上の使用者責任に基づき、企業の「組織的な監督過失」を徹底的に追及することが賠償額の最大化に繋がる。刑事裁判の記録や行政処分の内容を証拠として積極的に活用すべきである。
  • 加害者側弁護人へ: 危険運転致死傷罪の成立を争うことは、客観的証拠を前にして極めて困難と予想される。弁護活動の主眼は、被告の反省の情、高齢、健康状態などを訴え、量刑の軽減を図ることに置かれるべきであろう。
  • 企業側代理人・法務担当者へ: 危機管理対応として、まず民事訴訟における早期の和解交渉を模索し、賠償問題の長期化による企業イメージのさらなる悪化を防ぐべきである。同時に、行政監査には全面的に協力し、最悪の事態である事業許可取消しを回避するための改善策を具体的に提示する必要がある。社内の安全管理体制を抜本的に見直し、その改革プロセスを規制当局と社会に示すことが、信頼回復の第一歩となる。
  • 行政書士・コンプライアンス担当者へ: 本件は、コンプライアンスが単なる「帳票の整備」や「形式的なチェック」であってはならないという痛烈な教訓である。運送事業者に対しては、以下の点を強く推奨すべきである。
  • 単なる検知器の数値だけでなく、運転者の顔色や言動も確認する、実質的な点呼の徹底。
  • 出庫前だけでなく、抜き打ちでの中間点呼の導入。
  • アルコール依存症の疑いがある従業員に対する相談・治療支援体制の構築。これは、企業の監督責任の一環として評価されうる。
  • 高リスク業務においては、費用をかけてでもアルコール・インターロック装置のような先進技術の導入を検討すること。

この悲劇的な事故は、一個人の逸脱が、いかに多くの人々の人生を破壊し、一つの企業を存亡の危機に陥れるかを示している。全ての関係者は、この教訓を自らの責務に反映させ、二度と同様の事態を繰り返さないための不断の努力を続けなければならない。

引用文献

  1. 伊勢崎「家族3人死亡事故」、なぜ地検は酔って分離帯乗り越えたトラック運転手を危険運転致死傷罪に問わないのか – 柳原三佳, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.mika-y.com/journalist/traffic/archive/?no=20240918222812
  2. One year has passed since the accident on the Jobu Road that killed a family of three in Isesaki – YouTube, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=akYXfzTzZIQ
  3. 伊勢崎3人死亡事故 遺族らが厳罰を求め署名活動 群馬・前橋市(24/10/12) – YouTube, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=lFu13EfzuKs
  4. 悲痛な母親を救ったもう一つの“命” 伊勢崎飲酒3人死亡事故 「怒りしかない」厳罰訴える|TBS NEWS DIG – YouTube, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=d8KPXviw94A
  5. TBSテレビ報道局社会部からの、令和6年5月6日伊勢崎市内での飲酒運転トラックが対向車線に逸脱し5人を死傷させた暴走死亡事故についての危険運転致死罪への訴因変更についての取材について | TV・新聞など | 【公式】, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.kotsujiko-law.net/media/massmedia/entry-1056.html
  6. 《群馬・伊勢崎》飲酒トラック運転手の蛮行で2歳男児・父親・祖父 …, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.jprime.jp/articles/-/33368?display=b
  7. “焼酎の空き瓶”トラックから複数押収 家族3人死亡の飲酒運転事故 業務前にはアルコール検知されず 群馬・伊勢崎市 – FNNプライムオンライン, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.fnn.jp/articles/-/747013
  8. “焼酎の空き瓶”トラックから複数押収 家族3人死亡の飲酒運転事故 逮捕 – アメリカンライフ不動産, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.americanlife.jp/post/%E7%84%BC%E9%85%8E%E3%81%AE%E7%A9%BA%E3%81%8D%E7%93%B6-%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%AF%E3%81%8B%E3%82%89%E8%A4%87%E6%95%B0%E6%8A%BC%E5%8F%8E-%E5%AE%B6%E6%97%8F3%E4%BA%BA%E6%AD%BB%E4%BA%A1%E3%81%AE%E9%A3%B2%E9%85%92%E9%81%8B%E8%BB%A2%E4%BA%8B%E6%95%85-%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%AE69%E6%AD%B3%E7%94%B7%E3%82%92%E9%80%81%E6%A4%9C-%E7%BE%A4%E9%A6%AC%E3%83%BB%E4%BC%8A%E5%8B%A2%E5%B4%8E%E5%B8%82
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  10. 呼気検査がなくても酒気帯び運転で処罰されることがあります(ウィドマーク方式), 8月 2, 2025にアクセス、 https://yakuin-lawoffice.com/%E5%91%BC%E6%B0%97%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%8C%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%A6%E3%82%82%E9%85%92%E6%B0%97%E5%B8%AF%E3%81%B3%E9%81%8B%E8%BB%A2%E3%81%A7%E5%87%A6%E7%BD%B0%E3%81%95%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%81%93/
  11. 群馬県伊勢崎市・上武道路の家族3人死亡事故 地検が「危険運転」に訴因変更請求(24/10/11), 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.youtube.com/watch?v=UM0hZpSZlGE&pp=0gcJCfwAo7VqN5tD
  12. 「危険運転致死傷罪」に訴因変更へ 飲酒運転のトラックに衝突され家族3人が死亡した事故で「3人の無念を晴らしたい」 前橋地裁, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.fnn.jp/articles/-/773278
  13. 危険運転致死傷罪(第2条 – 長崎県警察, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.police.pref.nagasaki.jp/police/wp-content/uploads/2024/03/a980ebdf69b29f4977ea5502e4c726eb.pdf
  14. ケーススタディ 危険運転致死傷罪 Case 12 アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為に係る危険運転致死傷罪の成否(2) | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター, 8月 2, 2025にアクセス、 https://jglobal.jst.go.jp/public/201502219246739503
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  17. 従業員が起こした飲酒運転による事故に対する会社の責任は?(弁護士:中澤 亮一), 8月 2, 2025にアクセス、 https://niigata-common.com/info/labor/column-corporate-responsibility
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  22. アルコールチェック義務化の罰則まとめ|違反時の処分・安全運転管理者の責任 – ロジポケ, 8月 2, 2025にアクセス、 https://logipoke.com/column/arukoruchiekku-bassoku
  23. 安全運転管理者にも実刑判決, 8月 2, 2025にアクセス、 https://hokenpoint.jp/news/property/p2420/
  24. 2025年最新|アルコールチェック義務化の内容や罰則を徹底解説, 8月 2, 2025にアクセス、 https://jaf-training.jp/column/alcoholcheck-mandatory-penalties/
  25. アルコールチェック義務化の対応方法と実施のポイント【弁護士監修】 | MIMAMO DRIVE, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.tokiomarine-smartmobility.co.jp/service/mimamodrive/column/202406/alcohol-check_support.html
  26. 飲酒運転の通報があった場合に、職場としてどのような懲戒処分が考えられるのか(ChatGPT4.5作成) – 薬院法律事務所, 8月 2, 2025にアクセス、 https://bengoshi-kanegae.com/column/211
  27. 判例にみる民間企業の従業員の飲酒運転 と懲戒解雇処分, 8月 2, 2025にアクセス、 https://kiu.repo.nii.ac.jp/record/525/files/hou20-3-001andou.pdf
  28. 関東運輸局/25年6月、日本郵便の事業許可取消(違反点数197点 …, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.trucknews.biz/article/r073132/
  29. 関東運輸局、24年度の行政処分件数を公表 – LOGISTICS TODAY, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.logi-today.com/795811
  30. 関東運輸局、最長230日車など4社に行政処分 | LOGISTICS TODAY, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.logi-today.com/802215
  31. 国交省/累計違反197点で関東運輸局が日本郵便に許可取り消し処分 – LNEWS, 8月 2, 2025にアクセス、 https://www.lnews.jp/2025/06/r0625702.html
  32. 【安全運転管理者の仕事2023】事例で学ぶ!アルコールチェック義務化の3つの課題と解決策, 8月 2, 2025にアクセス、 https://mobility-service.pioneer.jp/contents/anzenunten-kanrisha-alcoholcheck/
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小川洋史lOGAWA Hirofumi
代表取締役
北海道岩見沢市生まれ。
資格:宅地建物取引士、行政書士、賃貸不動産経営管理士、競売不動産取扱主任者、日商簿記1級 FP2,TOEIC895等。
対応言語:日本語(JP), 英語(EN), 伊語(IT)
学歴:札幌西高、東北大、東工大
学位:工学修士、技術経営修士
札幌、仙台、東京、ミラノ(伊)、ボローニア(伊)、ハワイ、バンコク、沖縄など世界各地で田舎の木造からタワマンまで世界中の不動産を経験。主に不動産と法律について発信。
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