自己破産で行政代執行の費用は免除される?
【結論:免除されません】その法的理由を解説
クレジットカードのローン、消費者金融からの借金、銀行のカードローン…。 複数の債務が雪だるま式に膨れ上がり、返済の目処が全く立たない。このような状況で、生活を再建するための最終手段として検討されるのが「自己破産」です。
裁判所に申し立て、免責許可決定を得ることで、原則として全ての借金の支払いが免除される、まさに人生のリセットボタンとも言える制度です。
もしあなたが、空き家の行政代執行による高額な費用請求と、その他の多重債務の両方に苦しんでいる場合、「自己破産さえすれば、この厄介な費用も全てゼロになるはずだ」と一縷の望みを託しているかもしれません。
しかし、残念ながら、その期待は叶いません。
この記事では、なぜ行政代執行の費用だけは、自己破産という強力な法的手段をもってしても消すことができないのか、その根拠となる「絶対的ルール」について解説します。
【結論】自己破産をしても、行政代執行費用の支払義務は残ります
まず、最も重要な結論からお伝えします。
あなたが裁判所に自己破産を申し立て、免責許可決定を得たとしても、行政代執行にかかった費用の支払義務が免除されることは一切ありません。
これは、法律で明確に定められたルールであり、覆すことは極めて困難です。この事実を知らずに破産手続きを進めてしまうと、「他の借金は消えたのに、市役所からの数百万の請求だけが残り、結局、財産の差し押さえに怯える日々が続く」という、最悪の事態に陥りかねません。
なぜ免除されない?「非免責債権」という絶対的ルール
では、なぜ行政代執行の費用だけが、これほどまでに特別扱いされるのでしょうか。
その理由は、この費用が破産法で定められた「非免責債権(ひめんせきさいけん)」に該当するためです。
非免責債権とは、その名の通り「免責(支払義務の免除)の対象とならない特別な債権」のことです。破産法第253条第1項では、どのような債権が非免責債権にあたるかを定めており、その筆頭に挙げられているのが「租税等の請求権」です。
行政代執行の費用は、税金と同様に国税滞納処分の例により強制徴収が認められていることから、この「租税等の請求権」に類するものとして扱われます。
なぜ税金と同じ扱いなのか?制度の背景にある2つの考え方
この特別な扱いの背景には、明確な政策的判断が存在します。
- 公平性の確保 特定の個人の管理不全によって生じた問題を解決するために投じられた費用(その原資は、他の市民が真面目に納めた税金です)を、自己破産によって簡単に免除することは、社会全体の公平性を著しく害するという考え方です。
- 公益の優先 行政代執行は、個人の債権回収ではなく、地域の安全や衛生といった「公共の利益(公益)」を守るために行われる措置です。その費用負担の責任を安易に免除することは、空き家対策という制度の根幹を揺るがしかねません。
これらの理由から、行政代執行の費用は、個人の経済的再生よりも、社会全体の公平性と公益が優先されるべき、極めて重い債務と位置付けられているのです。
自己破産後の現実:他の借金はゼロ、でも費用請求だけが残る
自己破産手続きが無事に終わった後の状況を、具体的にイメージしてみましょう。
消費者金融からの借金やクレジットカードの未払い金は、全て支払う必要がなくなります。あなたを苦しめていた督促の電話や手紙も止まり、精神的には大きな安堵を得られるでしょう。
しかし、その一方で、自治体からの行政代執行費用の納付命令書だけは、依然として有効なままです。支払いがない場合、自治体は粛々と差し押さえの手続きを進めることができます。
つまり、他の借金からは解放されても、行政からの差し押さえリスクだけは消えることなく残り続けるのです。
まとめ:破産手続きの前に、必ず弁護士に費用問題を相談してください
ここまで解説した通り、行政代執行の費用は、
- 自己破産をしても免除されない「非免責債権」である。
- その理由は、税金と同様に、社会の公平性と公益性が優先されるため。
- 破産後も、費用支払いの義務と財産差し押さえのリスクは残り続ける。
という、絶対的なルールに縛られています。
もしあなたが多重債務と行政代執行費用の両方に苦しんでいるのであれば、自己破産の手続きを開始する前に、必ず弁護士にその旨を伝えてください。「この費用は免責されない」という事実を前提とした上で、あなたの生活を再建するための最善の法的戦略を一緒に検討してもらう必要があります。
▶︎ 費用の支払いが困難な場合の分割相談など、差し押さえを避けるための具体的な対処法については、こちらの完全ガイドで詳しく解説しています。 https://ogaware.jp/administrative-execution-cost-billing/
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