突然の訃報で、悲しむ間もなく押し寄せる手続きの数々。「何から始めれば…」「期限は大丈夫?」と不安でいっぱいではありませんか?
実は、親が亡くなってからの3ヶ月は、あなたの将来を左右する極めて重要な期間です。この期間の手続きを怠ると、数百万、場合によっては1000万円以上の借金を背負うことにもなりかねません。
しかし、ご安心ください。この記事では、相続の専門家が『3ヶ月以内に必ずやるべき5つの手続き』を緊急度順に徹底解説します。読み終える頃には、あなたの不安は消え、次に何をすべきかが明確になっています。
執筆者:おがわ ひろふみ
小川不動産株式会社代表取締役、行政書士小川洋史事務所所長
宅地建物取引士・行政書士。東北大学大学院で工学修士、東京工業大学大学院で技術経営修士を取得。不動産投資歴20年以上、欧州グローバル企業のCFOとして、Corporate Finance、国際M&Aに従事。不動産と法律、金融、テクノロジーの知見と経験を融合させ、独自の学際的な視点から、客観的で専門的な情報を提供します。
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はじめに:3ヶ月放置で1000万円損することも?!
突然の訃報。悲しみに暮れる間もなく、次々と押し寄せる手続きの波。
「何から手をつければいいのかわからない」
「期限があるって聞いたけど、本当に大丈夫?」
「手続きを間違えたら、取り返しがつかないことになるの?」
親を亡くした直後のあなたは、きっとこんな不安を抱えているのではないでしょうか。実際、私が不動産会社の経営者として、そして相続専門の行政書士として数多くのご家族と接してきた中で、「もっと早く知っていれば…」と後悔される方を何度も見てきました。
特に、相続が発生してから最初の3ヶ月間は、まさに「相続の成否を決める黄金期間」です。この期間に適切な手続きを行うかどうかで、あなたとご家族の将来が大きく変わることもあります。
例えば、借金が多い親の相続を放棄せずに受け入れてしまい、1000万円の返済義務を背負うことになったケース。準確定申告を怠ったために、本来受け取れるはずだった還付金数百万円を失ったケース。年金の停止手続きを忘れて、後から多額の返還請求を受けたケース。これらは決して他人事ではありません。
しかし、ご安心ください。正しい知識さえあれば、これらの問題は全て防ぐことができます。そして実は、期限が短いからといって、すべてを完璧に理解する必要はありません。まず「何をすべきか」を知り、「どの手続きが最優先か」を理解することが大切なのです。
この記事では、相続発生後の3ヶ月以内に必ず行うべき5つの重要な手続きについて、それぞれの期限と注意点、そして「やらないとどうなるか」を具体的に解説します。読み終える頃には、あなたの不安は確実に軽減され、次に取るべき行動が明確になっているはずです。
第1章 なぜ3ヶ月という期限が存在するのか?
相続手続きで「3ヶ月以内」という期限が頻繁に登場するのには、明確な理由があります。これは法律で定められた期限であり、故人の財産を巡るトラブルを早期に解決し、相続関係を確定させるためのものです。
最も重要なのは、民法第915条で定められた「相続の承認又は放棄をすべき期間」です。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、以下の3つの選択肢から一つを選ばなければなりません。
単純承認:プラスの財産もマイナスの財産(借金)も全て相続する
限定承認:プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続する
相続放棄:プラスもマイナスも一切相続しない
何も手続きをしなければ、自動的に「単純承認」したものとみなされ、借金があっても全て引き継ぐことになります。「知らなかった」「忙しくて手続きできなかった」という言い訳は、法的には通用しません。
しかし、なぜこれほど短い期間なのでしょうか?それは、故人の債権者や他の相続人の権利を保護するためです。相続関係が長期間不確定な状態では、債権者は借金の回収ができず、他の相続人も自分の権利を行使できません。そのため、法律は相続人に対して「速やかな判断」を求めているのです。
「後で考えよう」が招く深刻な結果
相続手続きの現場で最も多いのが、「とりあえず様子を見よう」という判断です。しかし、この「先送り」こそが、後々の大きなトラブルの原因となります。
実際に私が経験した事例では、「父には借金なんてないだろう」と思っていた息子さんが、3ヶ月後に800万円の借金があることを知り、もう相続放棄ができないという状況に陥りました。父親は小さな会社を経営していましたが、息子さんは家業に関わっておらず、経営状況を全く知らなかったのです。結局、息子さんは自己破産を検討せざるを得ませんでした。
また、準確定申告についても同様です。故人が個人事業主や不動産投資をしていた場合、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に申告を完了させる必要があります。この期限を過ぎると、本来払う必要のない加算税や延滞税が発生します。逆に、適切に申告すれば還付金を受け取れるケースも多いのですが、これも期限内に手続きしなければ権利を失います。
さらに、年金や健康保険の手続きも非常に短期間です。厚生年金の受給停止は死亡から10日以内、国民年金は14日以内に手続きが必要です。この手続きを怠ると、死亡後も年金が支給され続け、後日全額返還を求められることになります。場合によっては、不正受給として刑事責任を問われるリスクもあります。
これらの問題に共通するのは、「期限が過ぎてからでは取り返しがつかない」ということです。税金や返還金は、一度発生してしまえば支払いを避けることはできません。だからこそ、事前の正しい知識と迅速な行動が不可欠なのです。
第2章 【緊急度順】3ヶ月以内に必ずやるべき5つの手続き
1.【最重要・7日以内】死亡届の提出
すべての相続手続きの出発点となるのが、死亡届の提出です。医師から死亡診断書を受け取ったら、死亡の事実を知った日から7日以内に市区町村役場に提出する必要があります。
死亡届を提出しないと、火葬許可証が発行されず、葬儀を行うことができません。また、この手続きが完了しなければ、後続の年金停止や健康保険の資格喪失などの手続きも進められません。
提出に必要なもの:
- 死亡診断書(死亡届と一体になった用紙)
- 届出人の身分証明書
- 印鑑
なお、死亡届は通常、葬儀社が代行してくれることが多いですが、届出人欄への署名は遺族が行う必要があります。
2.【10日〜14日以内】年金受給停止手続き
故人が年金を受給していた場合、速やかに受給停止の手続きを行わなければなりません。この手続きの期限は年金の種類によって異なります。
厚生年金・共済年金:死亡日から10日以内
国民年金:死亡日から14日以内
手続きを怠ると、死亡後も年金が支給され続け、後日全額返還を求められます。「知らなかった」では済まされず、場合によっては不正受給として法的責任を問われる可能性もあります。
手続き場所: 年金事務所または年金相談センター
必要書類:
- 年金受給権者死亡届(報告書)
- 年金証書
- 死亡を証明する書類(戸籍謄本など)
ただし、日本年金機構に住民票コードが登録されている場合は、死亡届の提出により自動的に年金が停止されるため、別途手続きは不要です。年金振込通知書の「住民票コード収録状況欄」で確認できます。
なお、年金には「未支給年金」という制度があり、故人が受け取るべきだった年金を遺族が請求できる場合があります。この請求も、年金停止手続きと同時に行うのが一般的です。
3.【14日以内】健康保険の資格喪失届
故人の健康保険の資格喪失手続きも必要です。国民健康保険、健康保険組合、後期高齢者医療保険など、加入していた保険の種類に応じて手続き先が異なります。
期限: 死亡日から14日以内
手続き先:
- 国民健康保険:市区町村役場
- 健康保険組合:勤務先または健康保険組合
- 後期高齢者医療保険:市区町村役場
この手続きと同時に、「葬祭費」や「埋葬料」の申請も行いましょう。これは5万円程度の給付金を受け取れる制度で、申請しないと支給されません。
4.【3ヶ月以内】相続放棄・限定承認の判断
故人に借金などのマイナスの財産がある可能性がある場合、最も重要な手続きが相続放棄です。相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
相続放棄をすべきケース:
- 明らかに借金の方が多い
- 故人が連帯保証人になっている可能性がある
- 維持管理が困難な不動産しかない
- 相続人間のトラブルを避けたい
相続放棄の手続きは、各相続人が単独で行うことができます。ただし、一度受理されると撤回できないため、慎重な判断が必要です。
財産調査に時間がかかり、3ヶ月以内に判断できない場合は、家庭裁判所に「熟慮期間の延長」を申し立てることができます。通常3ヶ月程度の延長が認められますが、申立ては3ヶ月以内に行う必要があります。
必要書類:
- 相続放棄申述書
- 故人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(相続人)の戸籍謄本
- 故人の死亡の記載がある戸籍謄本
判断に迷うような場合は、すぐに専門家(行政書士など)にご相談ください。
5.【4ヶ月以内】準確定申告
故人が確定申告をする必要があった場合、相続人が代わりに「準確定申告」を行います。相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内が期限です。
準確定申告が必要なケース:
- 個人事業主や自営業者だった
- 不動産の賃貸収入があった
- 給与所得が2,000万円を超えていた
- 2か所以上から給与を受け取っていた
- 副業収入が20万円を超えていた
準確定申告をしないと、本来の税額に加えて無申告加算税と延滞税が課されます。逆に、適切に申告すれば還付金を受け取れる場合も多く、特に医療費控除や生命保険料控除により、数十万円の還付を受けられるケースもあります。
また、故人が前年分の確定申告を済ませずに1月〜3月に亡くなった場合は、前年分と当年分の2つの申告を4ヶ月以内に行う必要があります。
申告先: 故人の最後の住所地を管轄する税務署
主な必要書類:
- 確定申告書
- 源泉徴収票
- 各種控除証明書
- 準確定申告書の付表(相続人が複数の場合)
怠ると数十万円の追徴課税、やれば数十万円の還付の可能性も。ご自身のケースで判断に迷う場合は、専門家への相談をお勧めします。
期限を守るための実践的なアドバイス
これらの手続きを期限内に完了させるためには、以下のポイントが重要です。
1. 情報の整理を最優先に まず、故人の基本情報(加入していた保険、年金の種類、職業など)を整理しましょう。預金通帳、保険証券、年金証書、源泉徴収票などの書類を探すことから始めます。
2. 相続人全員での情報共有 手続きには相続人全員の協力が必要な場合が多いため、早期に家族会議を開き、情報を共有しましょう。特に遠方に住む相続人がいる場合は、連絡手段を確保しておくことが大切です。
3. 専門家の早期活用 すべてを自分で行おうとせず、必要に応じて専門家に相談しましょう。行政書士、司法書士、税理士など、手続きの内容に応じて適切な専門家を選ぶことで、確実かつ効率的に手続きを進められます。
行政書士には相続人調査や遺産分割協議書作成、各種許認可手続きの代行を、税理士には準確定申告や相続税申告を、司法書士には不動産の名義変更(相続登記)を相談できます。まずは信頼できる専門家を見つけることが大切です。
4. 手続きの優先順位付け 期限の短い手続きから順番に取り組みます。まず死亡届、次に年金と健康保険、その後相続放棄の検討、最後に準確定申告という順序で進めることをお勧めします。
まとめ:3ヶ月という貴重な時間を無駄にしないために
最初の関門を越えたあなたへ:本当の相続は、ここから始まる
この記事でお伝えした5つの手続きは、いわば相続の「応急処置」です。これらを無事に終えたあなたは、まず大きな関門を一つクリアしたことになります。本当にお疲れ様でした。
しかし、本当の相続、そしてご家族の資産を左右する最も重要な局面は、この後にやってきます。 それが、遺産の大部分を占める「不動産」をどう分けるか、という問題です。
この「不動産の分け方」を一つ間違えるだけで、
- 数百万円もの余計な税金を払うことになる…
- 売るに売れない「負」動産を抱え、固定資産税だけを払い続ける…
- 兄弟間で深刻なトラブルに発展し、家族の絆が壊れてしまう…
といった最悪の事態に陥ることは珍しくありません。
3ヶ月の期限を守ったあなたの努力を、決して無駄にしてはいけません。
応急処置の次に必要なのは、故人の遺した大切な不動産を、家族全員が納得する形で、そして最も賢く受け継ぐための「専門的な知識と戦略」です。
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