相続した実家がなかなか売れない…。その本当の理由は、物件の古さや立地ではなく、ほとんどの場合「売り方」に隠されています。特に「価格設定」「内覧の印象」「不動産会社選び」の3つを見直すだけで、売却できる可能性は劇的に高まります。
「もう1年以上も売れない…」「固定資産税だけがかさむ…」そんな焦りや不安を抱えていませんか?不動産会社から市況や立地のせいにされ、具体的な対策もなく時間だけが過ぎていくのは辛いですよね。
しかし、ご安心ください。この記事では、多くの人が陥りがちな失敗を避け、「売れる実家」に変えるための具体的なステップを徹底解説します。なぜ売れなかったのかが明確になり、今すぐ何をすべきかがはっきりと分かるはずです。
執筆者:おがわ ひろふみ
小川不動産株式会社代表取締役、行政書士小川洋史事務所所長
宅地建物取引士・行政書士。東北大学大学院で工学修士、東京工業大学大学院で技術経営修士を取得。不動産投資歴20年以上、欧州グローバル企業のCFOとして、Corporate Finance、国際M&Aに従事。不動産と法律、金融、テクノロジーの知見と経験を融合させ、独自の学際的な視点から、客観的で専門的な情報を提供します。
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はじめに:「売れない実家」という新たな悩み
「もう1年以上売りに出しているのに、問い合わせすらほとんどない…」
「不動産屋は『もう少し様子を見ましょう』と言うばかりで、具体的な対策を提案してくれない」
「このまま売れなかったら、固定資産税を払い続けるだけの負動産になってしまう」
相続した実家を売却しようとして、このような悩みを抱えている方が急増しています。特に地方都市や郊外の物件では、「売れない期間」が2年、3年と長期化するケースも珍しくありません。
なぜ、あなたの実家は売れないのでしょうか?
多くの不動産会社は、「市況が悪い」「立地が良くない」「築年数が古い」といった、あなたにはどうしようもない理由ばかりを挙げてきます。しかし、本当の理由は違います。実は、売れない実家の多くは、「売り方」に問題があるのです。もちろん、需要そのものがほとんどないエリアや、法律・手続き上の問題がある場合には、売り方だけではどうにもならない場合もありますが、それは数少ない例外的なケースです。
私の経験から断言できるのは、地方や郊外で需要が極端に低い物件、立地や建物の状態が著しく悪い物件など極端な例外を除けば、「絶対に売れない物件」というものはほとんど存在しないということです。適切な戦略と工夫があれば、築50年の古い実家でも、駅から遠い物件でも、必ず買い手は見つかります。
本記事では、不動産会社があまり教えたがらない「実家が売れない本当の理由」と、その具体的な解決策を包み隠さずお伝えします。この記事を読み終える頃には、なぜあなたの実家が売れないのか、そして何をすれば売れるようになるのかが、はっきりと見えてくるはずです。
理由1:価格設定の致命的な失敗
「思い出価格」という落とし穴
実家が売れない最大の理由は、ズバリ「価格が高すぎる」ことです。しかし、ここで重要なのは、単純に価格を下げれば良いという話ではありません。問題は、その価格設定の「根拠」にあるのです。
多くの方が陥る失敗が、「思い出価格」での設定です。
「父が3,000万円で建てた家だから、最低でも2,000万円では売りたい」 「リフォームに500万円かけたから、その分は回収したい」
「隣の家は2,500万円で売れたらしいから、うちもそれくらいで」
お気持ちは痛いほど分かります。しかし、残念ながら不動産の価値は「過去にいくらかけたか」ではなく、「今、買い手がいくら払えるか」で決まるのです。
不動産会社の「高値釣り」に要注意
もう一つの問題は、一部の不動産会社による「高値釣り」です。
媒介契約を取りたいがために、現実離れした高い査定額を提示する業者がいます。「我社なら3,000万円で売れます!」と言われれば、誰でも嬉しくなってその会社に依頼したくなるでしょう。
しかし、実際に売り出してみると全く反応がない。3ヶ月後には「市況が変わったので…」と値下げを提案してくる。これが高値釣りの典型的なパターンです。
解決策:「売れる価格」の見つけ方
1. 複数の不動産会社から査定を取る
最低でも5社以上から査定を取りましょう。そして、最高値と最安値を除いた中間の価格帯が、実際の相場です。査定額に500万円以上の開きがある場合は、その根拠を必ず確認してください。
2. 成約事例を確認する
「売り出し価格」ではなく「成約価格」を確認することが重要です。REINSの成約事例(※)や、国土交通省の「土地総合情報システム」で、実際に売れた価格を調べることができます。
(※)REINSは、一般に人は閲覧できませんので、不動産会社を通じて確認することが必要です。一方、国土交通省の「土地総合情報システム」は、データはREINSに比べて古い事例になりますが、ネット上で誰でも見ることができます。
3. 段階的な価格戦略を立てる
最初から最安値で出す必要はありません。以下のような段階的な戦略が効果的です:
- 1〜2ヶ月目:相場の上限で様子を見る
- 3〜4ヶ月目:相場の中心価格に調整
- 5〜6ヶ月目:思い切った価格見直し
4. 「売れ残り感」を出さない工夫
同じ物件が長期間、同じ価格で掲載されていると「売れ残り」の印象を与えます。価格を見直す際は、写真を撮り直したり、物件説明を変更したりして、「新規物件」のような印象を与えることも重要です。
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理由2:内覧で「がっかり」させている
第一印象で9割が決まる
価格が適正でも売れない場合、次に疑うべきは「内覧時の印象」です。
購入検討者は、物件情報を見て期待を膨らませて内覧に来ます。しかし、実際に見てみると…
- 玄関を開けた瞬間、カビ臭い匂いが充満
- 電気がつかず、薄暗い室内
- 荷物が散乱していて、部屋の広さが分からない
- 庭は雑草だらけで、まるで廃墟のよう

これでは、どんなに立地が良くても、価格が安くても、購入意欲は一瞬で失われてしまいます。
「空き家」だからこそ陥る罠
特に相続した実家の場合、以下のような問題が起きやすいです:
1. 生活感がなさすぎる
長期間空き家になっていると、建物特有の「空き家臭」が発生します。また、電気や水道を止めていることで、実際の生活がイメージできません。
2. 遺品が残っている
仏壇、遺影、古い家具などが残っていると、購入者は「他人の生活」を強く意識してしまい、自分の新生活をイメージしづらくなります。
3. メンテナンス不足が目立つ
雨樋の詰まり、外壁の汚れ、庭の荒れ具合など、管理されていない印象を与えると、「他にも見えない不具合があるのでは」という不安を抱かせます。
解決策:「売れる内覧」の準備方法
1. プロのハウスクリーニングを入れる
費用は、5〜10万円程度かかりますが、これは必要な投資です。特に水回り(キッチン、浴室、トイレ)の清潔感は、購入決定に大きく影響します。自分で掃除するよりも、プロの技術で見違えるようにきれいになります。
2. 家具・遺品は完全撤去する
「もったいない」と思うかもしれませんが、古い家具が残っていることで、数百万円の値下げ交渉を受けることを考えれば、撤去費用(撤去物の量により大幅に異なりますが、通常10〜30万円)は安いものです。完全に空にすることで、部屋も広く見えます。
3. 電気・水道は必ず開通しておく
内覧時に電気がつかない、水が出ないというのは致命的です。基本料金だけでも払って、必ず使える状態にしておきましょう。特に夕方の内覧では、照明の印象が購入意欲を大きく左右します。
4. 簡易的な演出をする
- 玄関に観葉植物や花を置く
- 芳香剤で爽やかな香りを演出
- カーテンを開けて自然光を取り入れる
- 各部屋に「この部屋は子供部屋として使えます」などのPOPを置く
5. 外観の第一印象を改善する
- 雑草を刈り、簡単に掃き掃除をする
- 郵便受けに溜まったチラシを処分
- 表札や門扉をきれいに拭く
- 可能なら高圧洗浄機で外壁や駐車場を洗浄
これらの準備には、合計で20〜50万円程度の費用がかかるかもしれません。しかし、これによって100万円以上高く売れる可能性があると考えれば、十分にペイする投資です。
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理由3:不動産会社選びの決定的なミス
「大手だから安心」という幻想
多くの方が、「大手不動産会社に任せておけば安心」と考えがちです。確かに大手には大手の良さがありますが、相続した実家の売却において、必ずしも最適とは限りません。
大手不動産会社の現実:
- 担当者一人が20〜30件を同時に扱っている
- 高額物件や回転の速い物件を優先する傾向
- 地方や郊外の物件は後回しになりがち
- マニュアル通りの対応で、個別の工夫が少ない
「専任媒介」に縛られていませんか?
もう一つの問題は、「専任媒介契約」に縛られて、他の選択肢を検討できなくなっているケースです。
専任媒介契約は、3ヶ月間は他の不動産会社に依頼できない契約です。その会社が積極的に販売活動をしてくれれば良いのですが、実際には「レインズに登録して終わり」という会社も少なくありません。
解決策:本当に売る気がある不動産会社の見分け方
1. 地元密着型の不動産会社も検討する
地元の不動産会社には以下のような強みがあります:
- 地域の購入希望者情報を豊富に持っている
- 地域特性を理解した販売戦略を立てられる
- 担当者が少ない物件を丁寧に扱ってくれる
- 口コミや紹介での集客力がある
2. 販売戦略を具体的に聞く
媒介契約を結ぶ前に、以下の点を必ず確認しましょう:
- どのような広告を出すのか(ネット、チラシ、看板など)
- 写真撮影はプロが行うのか
- 物件の特徴をどうアピールするのか
- 想定される購入者層は誰か
- 売れない場合の次の一手は何か
3. 一般媒介契約で複数社に依頼する
売れない期間が長期化している場合は、一般媒介契約で複数の不動産会社に同時に依頼することも検討しましょう。各社が競争することで、より積極的な販売活動が期待できます。
ただし、注意点もあります。窓口が複数になるため自分で各社とやり取りする手間が増えることや、不動産会社によっては「自社で成約させても仲介手数料がもらえないかもしれない」と考え、広告費をかけた積極的な販売活動を控えるケースもあります。一般媒介契約を選ぶ際は、各社とコミュニケーションを密に取り、販売状況をこまめに確認することが重要です。
4. 買取も選択肢に入れる
どうしても売れない、あるいはすぐにでも現金化したい事情がある場合は、不動産会社による直接買取も選択肢です。
ただし、これは最終手段と考えるべきです。買取価格は市場価格(仲介で売れる価格)の6〜8割程度になるのが一般的で、手元に残る金額は大幅に少なくなります。 一方で、
「建物の瑕疵(かし)があって仲介では売りにくい」
「相続トラブルで早く遺産分割したい」
「遠方に住んでいて管理がこれ以上困難」
といった明確な理由がある場合には有効な手段です。仲介手数料がかからず、売却活動の手間や期間も不要で、契約が成立すればすぐに現金化できるというメリットがあります。ご自身の状況と、価格のデメリットを天秤にかけて慎重に判断しましょう。
5. 担当者の「本気度」を見極める裏技
以下のような質問をして、担当者の反応を見ましょう:
– 「この物件の最大の魅力は何だと思いますか?」
- 「逆に、一番のネックは何でしょうか?」
- 「もし自分が買うとしたら、いくらなら買いますか?」
これらの質問に具体的に答えられない担当者は、あなたの物件を真剣に売る気がない可能性が高いです。
補足:忘れてはいけない「税金」の話
実家が売れた後には、税金の問題が待っています。特に譲渡所得税には注意が必要です。これは、不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対してかかる税金です。
譲渡所得 = 売却価格 – (取得費 + 譲渡費用)
先代が建てた家で取得費が分からない場合、売却価格の5%で計算されるため、多額の税金がかかる可能性があります。
しかし、相続した実家の売却には、税負担を大幅に軽減できる特例があります。代表的なものが「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
これらの特例には細かい適用要件があり、売却のタイミングや家の状態によって使えるかどうかが変わります。売却活動と並行して、税金についても不動産会社や税理士に相談しておくことを強くお勧めします。
コラム:「売る」以外の選択肢も視野に入れる
ここまで売却を前提に解説してきましたが、状況によっては「売らない」方が良いケースもあります。固定資産税などの維持費を払い続けることは避けたいですが、他の活用法も検討してみましょう。
- 賃貸に出す:
リフォーム費用はかかりますが、継続的な家賃収入が期待できます。地域の賃貸需要を調べてみる価値はあります。 - 更地にして売る:
建物の状態が悪く解体費用を捻出できるなら、更地にすることで売れやすくなる場合があります。ただし、解体すると固定資産税の住宅用地特例が外れ、税額が最大6倍になる点に注意が必要です。 - 空き家バンクに登録する:
自治体が運営する空き家バンクに登録することで、移住希望者など、通常の不動産市場とは異なる層の買い手が見つかる可能性があります。
これらの選択肢にもそれぞれメリット・デメリットがあります。ご自身のライフプランに合った最善の方法を見つけるためにも、一度立ち止まって検討することをお勧めします。
まとめ:「売れない実家」を「売れる実家」に変える
相続した実家が売れない理由は、物件そのものの問題ではなく、「売り方」の問題であることがほとんどです。
今すぐできる3つのアクション
1. 価格の見直し:
感情的な価格設定を捨て、データに基づいた適正価格を設定する
2. 内覧準備の徹底:
第一印象を劇的に改善し、購入者の心を掴む
3. 不動産会社の見直し:
本当に売る気がある会社・担当者を見つける
これらの対策を実行すれば、多くの場合、3〜6ヶ月以内に買い手が見つかります。地方や需要が低いエリアでは長期化するケースもありますが、先に述べた極端な例外を除けば買い手は見つかるものです。
しかし、実際の不動産売却では、さらに多くの検討事項があります。例えば、売却時期の見極め方、税金対策、契約時の注意点、トラブル回避の方法など、知っておくべきことは山ほどあります。
また、そもそも「売却」が最適な選択肢なのか、賃貸や活用の可能性はないのか、という根本的な検討も必要かもしれません。
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