気体密度とは何か
気体密度とは、気体(ここでは空気)の単位体積あたりの質量のことだ。

- ρ(ロー):気体密度[kg/m³]
- m:気体の質量[kg]
- V:気体の体積[m³]
平たく言えば、「1立方メートルの空間に、空気が何kg詰まっているか」を示す数値だ。
標準的な条件(海面・気温15℃・気圧101,325 Pa)における空気の密度は1.225 kg/m³と定義されている。これをISA(国際標準大気)標準値と呼ぶ。
直感的に理解する:「空気の重さ」とはどういうことか
「空気に重さなんてあるの?」と感じる人は多い。実感が湧きにくいのは、私たちが常に空気に囲まれていて、その重さを比較する機会がないからだ。
しかし事実として、1辺1メートルの立方体の空間に詰まった空気は約1.2kgある。2リットルのペットボトル約0.6本分の質量だ。
この「重さのある空気」をプロペラが掴んで下に押し出すことで、ドローンは上に浮く。だから空気が重いほど(密度が高いほど)、同じ回転数でより大きな推力が得られる。逆に空気が軽い(密度が低い)環境では、いくら回転数を上げても思うように力が出ない。

気体密度はなぜ変化するのか
気体密度が一定ではないことが、ドローン運用において重要な問題となる。ρは主に気温と気圧の2つの要因によって変化する。
その関係を記述するのが理想気体の状態方程式だ。

- P:大気圧[Pa(パスカル)]
- Rd:乾燥空気の気体定数 = 287.05 J/(kg·K)
- Tabs:絶対温度[K(ケルビン)]= 摂氏温度 + 273.15
気温が上がると密度が下がる
気温が高くなると、空気分子の運動が激しくなり、分子同士の間隔が広がる。同じ体積の中に入れる分子の数が減るため、密度が低下する。
夏の暑い日にドローンの飛びが悪くなるのは、パイロットの感覚の問題ではなく、この物理現象が原因だ。
気圧が下がると密度が下がる
標高が高くなるほど、その地点の上にある大気の量が減るため気圧が低下する。気圧が下がると、同じ体積に詰め込まれる空気の量が減り、密度が低下する。
山岳地帯でドローンがカタログスペック通りの性能を発揮できない理由がここにある。

条件別・気体密度の計算例
以下に、ドローン運用でよく遭遇する条件のρ計算値を示す。
| 条件 | 気温 | 気圧 | ρ [kg/m³] | ISA標準比 |
|---|---|---|---|---|
| 海面・冬季 | 5℃(278.15 K) | 101,325 Pa | 1.269 | +3.6% |
| 海面・標準(ISA) | 15℃(288.15 K) | 101,325 Pa | 1.225 | 基準値 |
| 海面・夏季 | 35℃(308.15 K) | 101,325 Pa | 1.146 | −6.4% |
| 標高500m・夏 | 30℃(303.15 K) | 95,460 Pa | 1.097 | −10.4% |
| 標高1,000m・夏 | 25℃(298.15 K) | 89,875 Pa | 1.050 | −14.3% |
| 標高1,500m・夏 | 30℃(303.15 K) | 84,560 Pa | 1.005 | −18.0% |
計算例:標高1,500m・気温30℃の場合

標準値1.225と比べると、約18%の密度低下だ。
ドローン申請実務における気体密度の使い方
気体密度ρは、推力計算の核心に位置する変数だ。

この式において、ρが18%低下するということは、他の条件が全く同じでも推力が18%低下することを意味する。
つまり申請書に記載すべき推力安全性評価は、最も条件の悪い飛行環境のρを使って計算しなければならない。「平地・冬季のρ=1.269で計算したTWR≥1.5を根拠に、夏の山岳地帯での飛行許可を申請する」という行為は、物理的に欺瞞だ。審査官がこの点を指摘できなくとも、機体はいつか正直に落ちる。
申請書への記載例
■ 飛行環境における空気密度の算出
飛行予定地:○○山(標高1,200m)
飛行予定月:8月(想定最高気温:28℃)
想定大気圧:87,200 Pa(標高1,200mにおける推定値)
気体密度ρ = P / (Rd × Tabs)
= 87,200 / (287.05 × 301.15)
= 87,200 / (86,437)
≈ 1.009 kg/m³
ISA標準値(1.225 kg/m³)に対する比率:82.4%
→ 本計算においては、推力をISA標準値の82.4%として評価する。
この一段落を申請書に加えるだけで、担当者に与える印象は劇的に変わる。「この申請者は、現場の環境条件まで物理で計算している」という信頼感が生まれるからだ。
関連用語・関連記事
- ISA(国際標準大気):航空分野で共通の基準として用いられる標準的な大気条件の定義。ρ=1.225 kg/m³はこの基準値。
- 推力係数C_T:プロペラの形状効率を示す係数。ρとセットで推力計算に使う。→ 第2回「トルクと推力」参照
- 理想気体の状態方程式:ρを気温・気圧から計算するための基礎式。→ 第33回「理想気体の状態方程式」で詳述予定
- Thrust-to-Weight Ratio(TWR):推力と機体重量の比。安全マージンの基準値として申請書で使用する。→ 第2回「トルクと推力」参照
まとめ
気体密度ρは、「空気の重さ」を数値化したものだ。ドローンにとってρが重要な理由は単純で、プロペラが押し出す相手が空気であり、その空気がどれほど重いかが推力を直接決定するからだ。
夏の暑い日、標高の高い場所、この2条件が重なったとき、ρは標準値の80%台まで低下することがある。この事実を計算で示し、それでも安全マージンが確保されていることを証明する。それが、飛行許可を勝ち取るための物理学の使い方だ。
→ 関連:第2回「トルクと推力(ニュートン)」――ρを使った推力計算の実務例 → 関連:第33回「理想気体の状態方程式」――ρを気温・気圧から導く詳細計算(予定)

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