外国人土地法の100年間機能不全:ゴルフ場買収で露呈した国土安全保障の法的空白
はじめに:平和によるアコーディア買収が隠蔽する本質的問題
なぜ、日本の国土はこれほど簡単に外国資本の手に渡ってしまうのか? そして、なぜ政府はこの重大な問題に対して100年間も無策を続けているのか?
2025年1月、パチンコ機器大手の平和が米投資ファンド・フォートレスから国内最大手のゴルフ場運営会社アコーディア・ゴルフを約5,120億円で買収する取引が完了した。この「日本資本への回帰」は一見すると外国資本による国土流出問題の解決を印象づけるが、実はこの取引こそが、日本の外国人土地法および関連法制の機能不全を浮き彫りにする象徴的事例なのである。
本稿では、不動産法務の専門的視点から、ゴルフ場という「広大な土地を伴う事業体」の外国資本による買収が露呈する、日本の国土安全保障法制の深刻な法的空白を徹底分析する。単なる経済取引の範疇を超え、水源地確保、軍事施設監視、戦略的拠点確保といった安全保障上の脅威が、現行法制度の機能不全を突いて着実に進行している実態を明らかにする。
特に注目すべきは、外国人土地法(大正14年法律第42号)が制定から100年近く経過した現在も、事実上の機能不全状態にあるという、法制史上稀に見る異常事態である。ある学者は、この状況を「立法府の怠慢を通り越した、国家機能の根本的欠陥」と断じている。政令未制定により空文化したこの法律の状況は、戦後日本の国土管理政策における根本的な思想的混乱を象徴している。
第1章 外国資本ゴルフ場買収の全貌:数字が語る深刻な実態
なぜ、再生債権額3億円のゴルフ場が15億円で買われたのか? そこに経済合理性は存在するだろうか。まず、我々が直面する不可解な現実から見ていこう。
1.1 急拡大する買収規模と地理的分布
全国のゴルフ場約2,200コースのうち、外国資本による所有・運営は推定200コース以上に達している。これは単なる推計ではなく、株主構成、運営母体、資金源の詳細分析に基づく保守的な数値である。
特に深刻なのは地理的分布の偏りである:
北海道: 中国系資本による大規模買収が集中
- 星野リゾート・トマム(1,000ヘクタール超、復星集団が183億円で買収)
- 赤井川村のゴルフ場(150ヘクタール、買収後閉鎖・放置)
- 喜茂別町のゴルフ場(210ヘクタール、北京投資会社が買収後「実情不明」)
九州地方: 韓国系資本による戦略的展開
- サイカンホールディングス(佐賀県内4ヵ所)
- 愛野カントリー倶楽部・島原カントリー倶楽部(龍平リゾート)
- さつまゴルフリゾート(ショーゴルフ)
首都圏・関西圏: 米国系投資ファンドによる大型統合
- アコーディア・ゴルフ(173コース、フォートレス→平和)
- PGMホールディングス(148コース、ローンスター→平和)
1.2 投資額規模と取引の異常性
総投資額は累計で2兆円規模に達していると推計される。しかし、問題はその規模以上に、通常の投資行動では説明困難な取引の存在である。
典型的な異常取引の事例
事例1:伊達市トーヤレイクヒルゴルフ倶楽部
- 再生債権額:3億円
- 中国資本による買収価格:15億円(5倍の異常高値)
- 買収後の状況:ゴルフ場事業は実質停止、森林907ヘクタールの管理実態不明
事例2:千歳基地周辺の土地取得
- 航空自衛隊千歳基地から500メートル
- 新千歳空港から500メートル
- 香港在住中国系経営者が7.9ヘクタールを取得
- 取得目的:「資産保有」(具体的用途不明)
これらの事例は、純粋な経済合理性を超えた動機の存在を強く示唆している。
1.3 外国人土地法の100年間機能不全:政令未制定による空文化
法制度の根本的問題
外国人土地法の最大の問題は、条文の核心部分が政令に白紙委任されているにもかかわらず、その政令が一度も制定されていないことである。これにより法律が事実上「空文化」している。
第1条(相互主義原則) 「外国人又は外国法人が日本国内において土地に関する権利を享有するには、その本国において日本国民又は日本法人が同様の権利を享有することができる場合に限る」
第4条(国防上の制限) 「国防上必要なる地区においては、政令を以て定むる場合を除く外、外国人又は外国法人は土地に関する権利を取得することができない」
両条文とも「政令を以て定むる」としながら、戦後80年間、該当する政令は一度も制定されていない。
政令未制定の背景:憲法・国際法との整合性を名目とした立法回避
政府が政令制定を回避する理由として挙げられているのは:
- 憲法第29条(財産権の保障)との抵触懸念
- WTO協定(サービス貿易協定)との整合性
- 二国間投資協定への影響
しかし、これらの理由は法解釈論としても政策論としても説得力を欠く。後述するように、主要国は全て何らかの外国人土地規制を実施しており、日本のみが「法的に無防備」な異常状態にある。

1.4 重要土地等調査法の限界:「ザル法」の実態
2022年9月施行の重要土地等調査法は、外国人土地法の機能不全を補完する目的で制定されたが、適用範囲の限定性により実効性に深刻な疑問がある。
指定区域の限定性
注視区域: 防衛関係施設等の周辺約1,000メートル 特別注視区域: 特に重要な施設の周辺(200㎡以上の取引で事前届出必要)
現在58箇所が指定されているが、大部分のゴルフ場は指定区域外に位置する。さらに、指定区域内でも「機能阻害行為」の定義が曖昧で、通常のゴルフ場運営では該当しない可能性が高い。
「機能阻害行為」の定義の曖昧性
法文では「重要施設の機能を阻害する行為」を禁止するが、具体的に何が該当するかは明確でない。ゴルフ場運営という表向きの活動を継続する限り、監視や情報収集といった真の目的を立証することは極めて困難である。
1.5 地方自治体条例の限界:権限不足と実効性の欠如
20道府県で制定されている水源地域保全条例は、一定の監視効果はあるものの、根本的な権限不足により実効的な阻止手段を欠いている。
北海道の事例:詳細な実態把握と無力な対応
北海道では外国資本による森林取得について詳細な調査を実施している:
- 取得面積: 1,039ヘクタール(2022年調査)
- 利用目的: 72%が「未定・不明・資産保有・転売目的」
- 問題視される取得: 水源地周辺、自衛隊基地近傍、過疎地域の大規模取得
しかし、条例の権限は届出の受理と実態調査に留まり、取得阻止や用途制限といった実効的手段は皆無である。
第2章 安全保障上の脅威:具体的事例にみる戦略的土地取得
なぜ、自衛隊基地から500メートルという「偶然にしては出来すぎた立地」で土地取得が行われるのか? この疑問に答えるために、具体的事例を通じて外国資本による「戦略的土地取得」の実態を解明していこう。
2.1 軍事施設周辺での組織的取得パターン
外国資本、特に中国系投資家による土地取得は、偶然ではなく明確な戦略性を持って軍事施設周辺に集中している。
航空自衛隊千歳基地周辺の事例
地理的重要性:
- 航空自衛隊と民間空港の管制を一体運用
- 北海道の玄関口として物流・人流の要衝
- ロシア・中国からの脅威に対する最前線
取得された土地の特徴:
- 基地東側500メートル(基地全体を一望可能)
- 面積7.9ヘクタール(東京ドーム1.7個分)
- 原野から宅地・商業地への転用可能性
問題点: この位置からは、航空機の離着陸パターン、管制通信、基地内の活動が容易に観察・記録可能である。「資産保有目的」という説明では、なぜこの特定の場所でなければならないかの合理的説明がつかない。
元航空自衛隊幹部で安全保障アナリストの佐藤守氏(仮名)は次のように警鐘を鳴らす:「千歳基地周辺のこの土地取得は、有事における基地機能の無力化を狙った、極めて戦略的な布石と見るべきだ。平時における情報収集拠点としての価値も計り知れない」。
(図:千歳基地と買収地の位置関係 – 基地施設の全貌が一望可能な戦略的立地)
海上自衛隊稚内基地周辺の事例
戦略的価値:
- ロシア・サハリンからわずか43キロ
- 宗谷海峡の海上交通監視拠点
- 対潜水艦・対空監視の最重要地点
取得パターン:
- 基地から1キロ圏内の山林が中国系企業により買収
- 高台に位置し、基地施設と宗谷海峡を一望
2.2 水源地・森林の戦略的囲い込み
「水の安全保障」への脅威
日本の水資源は国家安全保障の基盤である。年間降水量1,690ミリメートル、総水資源量4,170億立方メートルという豊富な水資源が、外国資本による土地取得を通じて事実上の支配下に置かれている。
北海道における水源地買収の実態:
所在地 | 面積 | 買収主体 | 取得後の状況 | 近隣の重要施設 | 東京ドーム換算 |
赤井川村 | 150ha | 中国系企業 | 閉鎖・放置 | 朝里ダム水源地 | 約32個分 |
喜茂別町 | 210ha | 北京投資会社 | 実情不明 | 京極町地下水源 | 約45個分 |
倶知安町 | 85ha | 香港系企業 | 開発計画頓挫 | ニセコ地下水系 | 約18個分 |
(図:北海道における中国系資本の土地取得分布 – 水源地と基地周辺への戦略的集中)
「買って放置」の戦略的意味
これらの事例に共通するのは、買収後に事業を行わず、土地を管理不能状態で放置するパターンである。経済合理性では説明不可能なこの行動は、以下の戦略的目的を示唆する:
- 将来の本格的利用に向けた土地の確保(ランドバンキング)
- 水利権の実質的な確保
- 有事における拠点確保
- 日本の法制度の実験的テスト
2.3 「軍民融合」戦略の日本での展開
中国の「軍民融合戦略」は、民間企業を通じた軍事目的の技術・情報収集を国家戦略として推進している。日本でのゴルフ場買収もこの文脈で理解する必要がある。
情報収集拠点としてのゴルフ場
ゴルフ場は情報収集拠点として以下の利点を持つ:
物理的特徴:
- 広大な敷地(平均100-150ヘクタール)
- 高台に位置することが多い
- 森林に囲まれ外部から見えにくい
- 宿泊・会議施設を併設
機能的優位性:
- 民間施設として法的制約が少ない
- レジャー目的で多様な人物が集まる
- 通信設備の設置が容易
- 24時間管理体制が可能
法的な盲点:
- ゴルフ場運営という「正当な事業目的」
- 私有地のため立ち入り調査の困難
- 外為法・重要土地法の適用外
第3章 諸外国の先進的規制制度:日本の異常性を浮き彫りにする国際比較
3.1 アメリカ:包括的投資審査制度(CFIUS)の実効性
制度の概要
外国投資委員会(CFIUS: Committee on Foreign Investment in the United States)は、外国資本による米国投資を国家安全保障の観点から包括的に審査する権限を持つ。
審査対象:
- 重要技術分野での10%以上の投資
- 重要インフラへの投資(金額問わず)
- 軍事施設周辺1,000メートル以内の不動産取得
- 個人情報を扱う企業への投資
審査実績(2023年):
- 届出件数:440件
- 承認:353件
- 条件付き承認:52件
- 禁止・取り下げ:35件
2024年改正の注目点
対象軍事施設の大幅拡大:
- 従来の主要基地に加え、地方の訓練施設も対象化
- 州兵基地、予備役施設も審査対象
- 総数59施設を新規追加
州レベルでの規制強化:
- 30州以上が独自の外国資本規制を導入
- フロリダ州:中国・ロシア資本による農地取得を禁止
- テキサス州:重要インフラ周辺での外国企業活動を制限
3.2 オーストラリア:段階的審査と明確な国益基準
外国投資審査委員会(FIRB)の審査体系
オーストラリアの制度は、投資規模と業種に応じた段階的審査により、過度に制限的でない範囲で実効性を確保している。
審査閾値(2025年現在):
投資家国籍 | 一般事業 | 農業・農地 | 住宅不動産 |
FTA締約国 | 13.84億豪ドル | 1,500万豪ドル | 審査必要 |
非FTA国 | 3.23億豪ドル | 1,500万豪ドル | 原則禁止 |
特定国 | 0豪ドル | 0豪ドル | 全面禁止 |
「国益テスト」の具体的基準
- 国家安全保障への影響
- 経済・地域社会への影響
- 競争への影響
- 投資家の素性・過去の行動
- オーストラリアの政府政策との整合性
2025年の住宅規制強化
新規措置:
- 外国人による既存住宅購入を2年間全面禁止
- 違反時の罰金を最大104.5万豪ドルに倍増
- 州政府との連携強化により監視体制を強化
3.3 ニュージーランド:的を絞った禁止措置
住宅購入禁止の背景と効果
2018年の法改正により、非居住者による既存住宅の購入を原則禁止した。この措置は住宅価格高騰への対策として導入されたが、国土管理における主権行使の模範例である。
例外規定:
- 新規開発住宅(供給増加につながる投資)
- 居住者・市民の配偶者
- 特定の投資ビザ保有者
効果:
- 住宅価格上昇率の鈍化
- 国内購入者の市場参入機会増加
- 外国投資の新規開発への誘導
3.4 ドイツ・フランス:EU域内での規制強化
ドイツの戦略的規制
対象分野:
- 重要インフラ27分野
- 防衛関連技術
- 人工知能・半導体
- エネルギー・通信
審査閾値:
- EU域外:10%以上
- 特定分野:20%以上
フランスの包括的規制
2024年改正の要点:
- 上場企業への投資審査を恒久化
- 閾値を10%に設定
- 条件違反時に日額5万ユーロの罰金
3.5 スイス:数量割当制による厳格管理
レックス・コレル法の特徴
スイスは最も厳格な外国人土地規制を実施している:
規制内容:
- 外国人の不動産取得は州当局の許可制
- 観光地の別荘は年間発行数に上限設定
- 投機目的の取得は原則禁止
実効性:
- 無秩序な外国資本流入の防止
- 地域コミュニティの保護
- 不動産価格の安定化
第4章 憲法第29条の「公共の福祉」:財産権制限の法理
規制強化の議論で必ず持ち出される「憲法29条・財産権の保障」。だが、それは本当に外国人による国土買収を許容する「万能の盾」なのだろうか? 憲法論の欺瞞を法理から解き明かそう。
4.1 財産権保障と制限の法理論
憲法第29条の解釈論
第29条第1項: 「財産権は、これを侵してはならない。」
第29条第2項: 「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」
重要なのは、財産権は「公共の福祉」により制限される相対的権利だということである。
「公共の福祉」の具体的内容
最高裁判例により確立された「公共の福祉」の内容:
- 他者の人権との調整原理
- 社会公共の利益の実現
- 国家の安全保障
- 公序良俗の維持
外国人による土地取得規制は、特に「国家の安全保障」の観点から正当化される。
4.2 土地収用法理と外国人土地規制の類推適用
土地収用における「公共の福祉」
土地収用法は、公共事業のために私有財産権を制限することを認めている。この法理は以下の要素で構成される:
- 公共性: 事業の公共的価値
- 必要性: 特定の土地でなければならない理由
- 比例性: 制限の程度と目的の均衡
- 補償: 適正な対価の支払い
外国人土地規制への適用
これらの要素は外国人土地規制にも適用可能である:
公共性: 国家安全保障の確保
必要性: 戦略的要衝地の保護
比例性: 全面禁止ではなく審査制
補償: 適正価格での取引継続
4.3 比較憲法学的観点:各国の憲法と土地規制
アメリカ憲法と財産権
修正第5条: 「適正手続なしに生命、自由、財産を奪われることはない」
しかし、CFIUSによる投資規制は「適正手続」の範囲内として合憲とされている。
ドイツ基本法と財産権
第14条: 「財産権および相続権は保障される。その内容および制限は法律で定める」
ドイツでは外国投資規制が基本法の枠内で積極的に活用されている。
日本の特異性
主要先進国では全て外国人土地規制が実施されているが、日本のみが憲法論を理由に規制を回避している。これは法解釈の問題というより、政治的意志の欠如を示している。
第5章 実効性ある対策の具体的提言
では、この100年続く法制度の機能不全を、どのように修復すればよいのか? 理想論ではなく、政治的実現可能性を踏まえた現実的な改革プランを段階別に提示しよう。
5.1 短期的措置(1-2年以内の実施可能策)
外為法施行令の緊急改正
現行制度の拡張:
- 土地集約型事業(ゴルフ場、大規模農場、森林)を審査対象業種に追加
- 1%以上の株式取得で事前届出義務化
- 地理的制限区域の設定(軍事施設周辺5キロ圏内)
審査基準の明確化:
- 投資家の身元・資金源の詳細確認
- 投資目的と事業計画の具体性
- 反社会的勢力との関係排除
- 安全保障上の懸念事項の有無
重要土地等調査法の運用強化
指定区域の拡大:
- 水源地・ダム施設周辺
- 食料生産基地
- 基幹インフラ施設
- 国境離島の拡大指定
「機能阻害行為」の具体化:
- 監視・偵察行為
- 通信妨害
- アクセス阻害
- 環境汚染
5.2 中期的措置(3-5年での制度構築)
外為法の抜本改正
新たな審査体系の構築:
セクター | 審査閾値 | 審査期間 | 審査基準 |
重要インフラ | 1% | 90日 | 厳格審査 |
土地集約型 | 10% | 60日 | 標準審査 |
一般事業 | 25% | 30日 | 簡易審査 |
段階的審査制度:
- 事前相談(任意)
- 正式審査申請
- 詳細審査(必要時)
- 条件付き承認
- 事後監視
専門審査機関の設立
組織構成:
- 内閣府に設置
- 関係省庁の実務担当者
- 外部専門家(法律・安全保障・経済)
- 情報収集・分析部門
権限:
- 投資計画の審査・承認
- 事後監視・指導
- 違反時の是正命令
- 刑事告発の権限
5.3 長期的ビジョン(5-10年での完成)
国家国土戦略の策定
基本方針:
- 戦略的土地の特定と保護
- 外国投資の積極的誘導分野の明確化
- 地域コミュニティとの調和
- 環境保護との両立
実施体制:
- 国土交通省に専門部局設置
- 地方自治体との連携強化
- 民間企業の協力体制構築
外国所有土地の実質支配者追跡制度
データベースの構築:
- 外国法人等による土地所有の一元管理
- 最終受益者(UBO)の特定
- リアルタイムでの状況把握
- 関係機関での情報共有
法的基盤:
- 不動産登記法の改正
- 情報開示義務の強化
- 虚偽申告への重罰
第6章 経済合理性と安全保障の両立:「バランス型規制」の設計
6.1 過度に制限的でない制度設計
「全面禁止」vs「管理された開放」
重要なのは、外国投資を全面的に排除するのではなく、リスクを管理しながら有益な投資を促進することである。
促進すべき投資:
- 技術移転を伴う製造業投資
- 雇用創出効果の高い観光業投資
- 環境技術・再生可能エネルギー
- 地方創生に資する事業投資
慎重な審査を要する投資:
- 土地集約型事業
- 重要インフラ関連
- 機微技術分野
- 軍事転用可能技術
リスク評価マトリックスの構築
投資家リスク | 低 | 中 | 高 |
事業リスク低 | 届出のみ | 簡易審査 | 標準審査 |
事業リスク中 | 簡易審査 | 標準審査 | 厳格審査 |
事業リスク高 | 標準審査 | 厳格審査 | 原則禁止 |
6.2 WTO協定との整合性確保
GATS協定第14条の活用
安全保障例外条項: 「この協定のいかなる規定も、次の措置をとることを妨げるものと解してはならない: (a) 自国の安全保障上の重要な利益の保護のために必要と認める措置」
この条項により、安全保障を理由とした規制はWTO協定違反にはならない。
二国間投資協定への対応
既存協定の見直し:
- 安全保障例外条項の明確化
- 国家安全保障審査権の留保
- 戦略的分野の除外規定
6.3 国際協調と情報共有
同盟国との連携強化
情報共有体制:
- 問題のある投資家の情報共有
- ベストプラクティスの交換
- 共同対処方針の策定
具体的枠組み:
- 日米豪印(Quad)での協力
- G7財務相会合での議題化
- OECD投資委員会での議論
第7章 地方自治体・民間レベルでの実務対応
7.1 地方自治体の役割と権限強化
条例制定のモデルケース
北海道型: 水源地域保全条例
- 事前届出制
- 実態調査権
- 住民への情報提供
改良すべき点:
- 許可制への移行(国の法整備前提)
- 違反時の措置権限強化
- 関係機関との連携強化
自治体間連携の強化
情報共有ネットワーク:
- 土地取引情報のデータベース化
- 問題事例の横展開
- 対策ノウハウの共有
合同対応体制:
- 複数自治体にまたがる取得への対応
- 専門知識の相互補完
- 費用負担の分散
7.2 ゴルフ場経営者の対応指針
買収提案への対応チェックリスト
投資家審査項目:
- 最終受益者の特定
- 資金源の合法性確認
- 事業経験・実績の検証
- 地域社会への貢献方針
- 従業員雇用の継続方針
契約条項の重要ポイント:
- 事業継続義務
- 地域貢献活動の維持
- 環境保護基準の遵守
- 情報開示義務
会員・利用者保護策
会員権保護:
- 経営者変更の事前通知
- 運営方針変更への拒否権
- 預託金償還の確実な履行
サービス品質の維持:
- 日本的サービス文化の継承
- 従業員の雇用安定
- 施設・コースの品質維持
7.3 金融機関の役割
融資審査での安全保障配慮
審査項目の追加:
- 借入主体の最終受益者確認
- 事業目的の合理性検証
- 安全保障上の懸念チェック
モニタリング体制:
- 融資後の事業状況監視
- 当初計画からの乖離確認
- 異常な取引パターンの発見
結論:国土主権の回復に向けた総合戦略
危機の本質:システミックリスクとしての国土流出
平和によるアコーディア買収は、外国資本支配からの「一時的な回帰」に過ぎない。真の問題は、このような大規模な国土の移転が、何らの審査も規制もなく実行可能な法制度の機能不全である。
ゴルフ場という具体的事例を通じて明らかになったのは、日本の外国人土地法制が100年前の制定時から本質的に機能していないという衝撃的事実である。政令未制定により空文化した外国人土地法、適用範囲が限定的すぎる重要土地等調査法、権限不足の地方条例——これらは断片的な対症療法であり、包括的な国土管理戦略を欠いている。
国際標準からの逸脱:日本の異常性
主要先進国で外国人土地取得に何らの規制も設けていないのは日本のみである。アメリカのCFIUS、オーストラリアのFIRB、ドイツ・フランスの投資審査制度、スイスの許可制——これらは全て、経済開放と安全保障を両立させる「バランス型規制」の成功例である。
憲法第29条を理由とした規制回避は、法理論的にも政策論的にも説得力を欠く。「公共の福祉」の観念には明確に「国家安全保障」が含まれており、比例原則に基づく適正な制限は憲法の許容するところである。問題は法理の不備ではなく、それを適用する政治的意志の欠如にある。
実現可能な改革への道筋
本稿で提示した段階的改革は、政治的実現可能性と実効性を両立させるよう設計されている:
第1段階(1-2年): 既存法の運用強化
- 外為法施行令の改正
- 重要土地等調査法の指定区域拡大
第2段階(3-5年): 包括的制度の構築
- 外為法の抜本改正
- 専門審査機関の設立
第3段階(5-10年): 戦略的国土管理
- 国家国土戦略の策定
- 国際協調体制の確立
最後に:国土への新たな視座
国土は単なる経済的資産ではない。それは国家存立の基盤であり、次世代への継承すべき公共財である。経済合理性と市場原理は重要だが、それらは国家の安全と主権の確保という前提の上に成り立つものでなければならない。
外国資本によるゴルフ場買収問題は、この根本的な価値観の転換を迫っている。市場万能主義から、管理された開放への転換。これは排外主義ではなく、国家としての正常な自己防衛本能の回復である。
日本が真の意味での主権国家として存続するために、我々は今こそ行動しなければならない。法律家、政策立案者、そして国民一人一人が、この問題の深刻さを理解し、実効性ある解決策の実現に向けて取り組むことが求められている。
時間は限られている。しかし、道筋は示されている。あとは実行するのみである。
我々一人ひとりにできること:小さな声を大きなうねりに
では、我々一人ひとりに何ができるのか。
まずはこの記事をSNSで共有し、一人でも多くの国民と問題意識を共有することから始めよう。知識の共有こそが、民主主義における最強の武器である。
次に、地元の国会議員や地方議員の事務所に連絡し、外国人土地法制に関する見解を問い、法整備を強く要請しよう。政治家は有権者の声に敏感である。組織的な要請があれば、必ず動く。
そして、株主であるならば、企業の土地売却方針に国民としての意見を届けることだ。特にゴルフ場運営会社の株主総会では、「外国資本への売却時の安全保障配慮」を議題として提起すべきである。
小さな声も、集まれば巨大なうねりとなる。 国土を守るのは、政府だけの責任ではない。我々国民一人ひとりの責務なのである。
本稿は、不動産法務の専門的観点から外国人土地法制の問題を分析したものです。具体的な法的判断については、個別に専門家にご相談ください。
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