
1. 「トイドローン」という認識の甘さが招く、企業の法的リスク
「100g未満だから、これは航空法の対象外だ」
もし、あなたのクライアントや現場担当者がこの言葉を口にしたなら、即座に立ち止まらせるべきである。ドローンの実務において、「100g」という境界線を巡る認識の甘さは、単なる書類の不備では済まされない。それは、企業の社会的信用の失墜、損害賠償リスク、そして刑事罰を招きうる、見えにくい法的地雷である。
1gが変える法的地位
DID(人口集中地区)内にある工場や建設現場で、100g未満と謳われる「トイドローン」を使用して点検や空撮を行っていたとする。そこへ通報を受けた警察官が現れ、機体を精密な秤に乗せる。その針が「100g」を示した瞬間、状況は一変する。
航空法施行規則第5条の2は、同法第2条第22項の委任を受け、無人航空機から除外される重量を「100グラム未満」と定めている。すなわち「100gちょうど」は既に航空法上の「無人航空機」である。この1gの差によって、無自覚に行っていた飛行は「無登録機体による飛行」「リモートID未搭載」「特定飛行の無許可実施」という複数の航空法違反が重なる事態へと転化する。
実務上、最も多い過ちはメーカーのカタログ値を基準とすることだ。後付けのプロペラガード、高出力バッテリーへの換装、機体識別用ステッカーの貼付。これらの合計がカタログ値に1g加算されるだけで、法的には「航空機」としての義務を負う機体となる。行政機関はカタログスペックではなく、現実に存在する機体の状態を評価する。
なお、「重量」の法的定義について正確に把握しておく必要がある。航空法における基準重量とは、機体本体とバッテリーを含む最大離陸重量(MTOW)を指す。国土交通省の運用上は、飛行時に機体に装着されているすべての付属品を含めた状態での重量が判断基準となる。「容易に取り外せるから重量に含まれない」という理解は誤りであり、飛行直前の実際の搭載状態での計測が求められる。
航空法外でも包囲される「特別法の罠」
「100g未満だから自由だ」という主張が崩れる場面は、重量問題だけではない。
小型無人機等飛行禁止法は、国会議事堂、内閣総理大臣官邸、原子力事業所、その他の重要施設周辺において、航空法上の重量定義にかかわらず、すべての「小型無人機」の飛行を一律に禁止している。同法における「小型無人機」は大きさや重さを問わず対象となる。航空法上の適用除外であることを理由に飛行を強行すれば、警察による退去命令・飛行妨害の対象となり、状況によっては身体拘束に発展しうる。
さらに、見落とされがちな規制として以下がある。
電波法:国内での使用に技適マークのない送信機器の使用は電波法違反となる。海外製の安価なトイドローンには技適未取得のものが多く、機体の重量問題と並行して確認が必須である。
各自治体の条例・規則:公園条例や河川管理規則により、航空法の適用除外機体であっても飛行が禁止されている場所は全国に多数存在する。「航空法外だから自由」という発想は、行政法規の重層構造を無視した危険な単純化である。
道路交通法・民法:公道上空の飛行に関しては道路交通法上の問題が生じる場合があり、他者の土地上空を無断飛行すれば民法上の不法行為となりうる。
企業コンプライアンスにおける見えないコスト
大企業のインフラ・物流部門にとって、最も重い代償は罰金額ではない。「航空法違反で捜査を受けた」という事実の公表によるレピュテーションリスクである。一度でもこの記録が残れば、その後の飛行許可申請において審査が厳格化されるという実務上の不利益も生じる。
法務コンプライアンスの実務家として顧客に求められるのは、「法の抜け穴を探す技術」ではなく、「適正な法的根拠に基づいた安全な業務設計の技術」である。その視点から、100gという境界線の正確な構造を次節で解説する。
2. 条文が与える「二つの地位」――除外規定の読み方
「100g」という境界線は、怯える対象ではなく、実務設計の起点となる概念である。その法的根拠は、航空法第2条第22項および航空法施行規則第5条の2の連動構造にある。
多くの事業者はこれらを単なる「定義規定」として読み飛ばすが、条文の構造を精読すれば、異なる姿が浮かぶ。
航空法第2条第22項の括弧書きは、無人航空機から除外される要件を「その重量その他の事由を勘案してその飛行により航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないもの」と定め、その具体的基準として施行規則第5条の2が「重量が100グラム未満のもの」と規定している。
ここから導かれる実務的含意は明確である。
100g未満の機体(模型航空機)は、機体登録、リモートID搭載、特定飛行の許可・承認といった航空法上の義務から完全に解放される。ただし、前述の通り他の法規制は別途適用される。
100g以上の機体(無人航空機)は、これらの義務を負う代わりに、適正な手続きを経ることで、DID地区上空、目視外、夜間、物件30m未満といった高難度ミッションへの参入資格を正式に取得できる。
この境界線は、禁止と許可を分ける壁ではなく、異なる法的地位への入口として機能している。どちらの地位を選択するかは、業務の内容と規模によって判断すべき実務設計の問題である。
3. 重量の厳密な定義と、行政実務における確認プロセス
行政機関や警察が「これは100g以上ではないか」と疑義を呈した際、それに対応するためには重量の法的定義を正確に把握し、客観的な証明手段を備えていなければならない。
航空法において、機体が「無人航空機」に該当するかどうか(100g未満か否か)を判断するために用いる「重量」とは、「最大離陸重量(MTOW)」ではない。法が厳密に基準としているのは、「無人航空機本体の重量及びバッテリーの重量の合計」である。
したがって、「飛行直前の実際の装備状態(付属品を含む)における総重量が評価対象となる」という解釈は法的に誤りである。航空法の運用上、「バッテリー以外の取り外し可能な付属品の重量は含まない」と明確に規定されている。
「実際の飛行形態における搭載状態を前提に計測を行う必要がある」と主張する者がいるが、これは無人航空機の定義の根幹を誤解している。容易に取り外しが可能なプロペラガードやカメラ等の装備品は、法的に重量計算から完全に除外される。実務においては、メーカーのカタログ値や漠然とした最大離陸重量ではなく、法が定めた除外規定を正確に適用した「本体+バッテリー」のみの重量をもって、機体の法的性質(100g未満の模型航空機であること)を客観的に立証しなければならない。
行政側の確認実務
行政機関は、事故発生時の責任帰属を明確にするため、機体の法的地位の確認を厳格に行う傾向がある。この確認作業において、事業者側が客観的な計測記録を持っているか否かは、行政対応の結果に大きく影響する。
「メーカーのカタログ値では99gです」という口頭説明は、現実の機体の状態を証明しない。法的リスク管理の観点から求められるのは、実際の飛行形態における計測値の記録である。
4. 実務への実装――二つの法的地位を業務設計に落とし込む
100gの境界線を理解した上で、これを実際の申請書類や現場マニュアルにどう実装するか。二つの実務戦術を提示する。
その通りだ。「現場での計量証明を内部規定化し、客観的な証拠として突きつける」という戦術の方向性自体は、極めて鋭く、実務上最強の盾となり得る。
しかし、そこに組み込む「法律の解釈(重量の定義)」が間違っていれば、自ら用意した盾で自分の首を切り落とすことになる。航空法が定める「重量」とは、あくまで「機体本体とバッテリーの合計」であり、取り外し可能な付属品は含まれないからだ。
貴殿の戦術をベースに、役人や警察官の不当な追及を完全に封殺し、彼らを法的に沈黙させるための「完璧なテキスト」へと再構築した。以下の内容をそのまま使用してくれ。
戦術Ⅰ:100g未満運用における「法定計量証明の内部規定化」
クライアントがどうしても100g未満の機体(模型航空機)として業務を行いたいと主張する場合、法的リスクを粉砕するための唯一の手段は「現場における厳密な法定重量測定プロトコルの文書化」である。
運用マニュアルへの組み込み例として、以下の文言が実務上極めて有効である。
「本運航において使用する機体は、航空法施行規則第5条の2に基づき航空法の適用除外となる100g未満の機器(模型航空機)である。本基準の遵守を客観的かつ法的に担保するため、飛行業務の直前において、校正済みの精密電子天秤(最小表示0.1g単位)を用いて、法定基準に則り『機体本体およびバッテリーの合計重量』(取り外し可能なプロペラガード等の付属品を完全に除外した状態)の計測を実施し、その数値と計測状況をタイムスタンプ付きの写真とともに飛行ログに記録する。」
タイムスタンプ付きの厳密な「法定計量記録」を突きつけられる事業者と、「メーカーのカタログ値は99gです」と素人じみた口頭説明をするだけの事業者とでは、警察や行政対応における立場が天と地ほど異なる。役人の裁量を挟む余地を、物理的かつ合法的な証拠で消し去るのだ。
ただし、現場において最も警戒すべきは、法の定義を理解していない警察官が「付属品込みの最大離陸重量」で計量しようとする事態である。この際、「付属品を取り付けたから100gを超えたかもしれない」と怯んではならない。直ちに航空法における重量の定義(本体とバッテリーの合計のみ)を盾として提示し、不当な計量を論理的に拒否する姿勢が不可欠となる。
なお、航空法の網を合法的に抜けたとしても、国家の監視が全て消え去るわけではない。「重要施設の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律」において規制対象となる「小型無人機」は、大きさや重さにかかわらず対象となり、100g未満であっても飛行が禁止される。また、海外製の安価な機体に多い電波法違反(技適未取得)や、各自治体の条例違反は、この戦術によって回避されない。
この計量証明戦術は、あくまで「航空法」という巨大な壁を無力化するための特化型ツールであり、すべての法令を無効化する魔法の杖ではないことを、クライアントの脳裏に徹底的に刻み込んでおく必要がある。
戦術Ⅱ:あえて「100g超の機体」を選定し、国家の許可を最強の盾とする実務設計
もう一つの選択肢として、100g未満のグレーゾーンに怯える運用を捨て、最初から法定重量100g超の「無人航空機」を選定(または恒久的な改造により法定重量を100g以上として設計)し、DIPSで正式登録の上、国土交通大臣の許可・承認を取得する方法がある。
例えば、法定重量(本体+バッテリー)が100g以上であることを明確にした上で無人航空機として機体登録する。そして、審査要領に基づく「無人航空機の機能・性能に関する基準適合確認書(様式2)」において、追加の安全装備等による安全性の向上を正式に立証し、DID地区上空・目視外・物件30m未満の特定飛行許可を取得するのだ。
この戦術を選択した場合、現場で法的根拠を問われた際には次のように対応できる。
「本機体は無人航空機として国土交通省に正規登録されており、リモートIDを搭載している。この場所における飛行は、航空法に基づく特定飛行として、国土交通大臣の許可・承認を取得済みである。こちらがその許可書だ」
国家権力である警察に対し、同じ国家権力である国土交通大臣の「許可書」という絶対的な客観的証明を突きつけるのだ。
ただし、この戦術の実行には実務コストが伴う。DIPS上の機体登録手続き、リモートID機器の調達、飛行許可申請の準備と審査期間(飛行開始予定日の10開庁日前までの提出要件や補正期間等)を考慮した業務スケジュールの設計が必要である。単発の小規模業務にこの戦術を適用することが合理的かどうかは、業務の頻度・規模・リスク水準に応じて判断すべきである。
二つの戦術の選択基準 実務における選択は次の観点から行うとよい。 飛行頻度が高く、DID地区内での継続的な業務が見込まれる場合は、戦術Ⅱにより正式許可を取得した方が長期的なリスク防御の観点から圧倒的に優れている。一方、機体の法定重量が明確に100g未満であり、飛行場所が航空法適用除外の対象で、かつ小型無人機等飛行禁止法等の他法令にも抵触しない場合に限り、戦術Ⅰ(厳密な法定計量証明の内部規定化)が合理的な選択となる。
5. まとめ――境界線は「戦略的起点」である
100gという境界線は、法の抜け穴ではなく、業務設計の起点である。
法的実務家に求められるのは、この境界線を回避する技術ではなく、いずれの地位においても適正な根拠を構築し、業務の安全性と適法性を客観的に証明できる設計力である。「100g未満だから自由だ」という認識は、重層的な行政法規の前では根拠を持たない。「100g以上だから許可が必要だ」という認識は、適正な手続きを経ることで業務の正当性を確立する機会でもある。
どちらの地位を選択するにせよ、その根拠を文書として客観的に示せる準備が、実務コンプライアンスの本質である。


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