1. 「要領通りに書きました」が通用しない、行間を読めない者の末路
「審査要領の要件を満たすように、国交省の航空局標準マニュアルをそのまま添付しました。なのに、なぜこんなに大量の補正指示が来るのですか!」
高難易度の特定飛行(DIDでの目視外飛行や、物件投下など)の申請において、審査要領という名の「採点表」を手に入れた気になり、表面的な文字面だけをなぞって申請書を作成する事業者がいる。彼らは審査官から「本件飛行における具体的な安全対策を記載してください」「異常時の対応が不明確です」と突き返されると、決まってこう嘆く。
「要領に書いてあることは全部マニュアルに盛り込んだのに、これ以上どうしろと言うのか」と。
彼らが陥っている罠は、「審査要領の抽象性」に対する理解の欠如である。 例えば、審査要領には「適切な飛行経路を特定すること」「状況に応じて必要な措置を講じること」といった、極めて曖昧な文言が散りばめられている。普通の実務家は、独自マニュアルを作成する際にも、この「適切に」「状況に応じて」という言葉をそのままコピペして使ってしまう。
行政の審査官からすれば、これは「私は現場で適当にやります」という自白に等しい。
審査官が恐れているのは、「適切にやります」という抽象的な約束を信じて許可を出した結果、現場で事故が起き、「なぜこんなずさんな計画に許可を出したのか」と国会やマスコミから責任を追及されることである。
「要領通りに書きました」という主張は、審査官の心に潜む「万が一の責任問題(アカウンタビリティ)」という恐怖を1ミリも払拭できない。行間を読めず、審査要領の言葉をオウム返しにするだけの申請書は、永遠に決裁印が押されない「終わらない手紙(補正地獄)」へと変わるのである。
2. 行政手続法「審査基準」の法的性質と「逆算のロジック」
この補正地獄を回避し、一発で審査官を沈黙させるための武器。それは、行政手続法における「審査基準」の法的性質を理解し、要領の文言から審査官の「本当の不安」を読み解く「逆算のロジック」である。
行政手続法第5条は、行政庁に対し「許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準(審査基準)」を、できる限り具体的に定めるよう求めている。
しかし、ドローンの運航という無数の変数が絡む事象において、すべての現場に適用できる「絶対的な数値(〇メートルの離隔、〇〇という機材を使え等)」を国が完璧にリストアップすることは不可能だ。だからこそ、審査要領にはあえて「適切な措置」という抽象的な「余白」が残されている。
プロは、この「余白」を「審査官が自らの責任を回避するための逃げ道」であると見抜く。
すなわち、審査要領を読むときの正しい思考法は、「この条文を守らなければならない」ではない。 「この抽象的な条文は、審査官の『どのような最悪のシナリオ(不安)』を払拭するために書かれているのか?」と逆算することである。
審査要領の行間に隠された「役人の本音(=もしこうなったら、私は責任を取らされるから嫌だ)」を見つけ出し、彼らが何も考えずとも「この申請者は、私が恐れているリスクを完全に理解し、客観的なエビデンス(数値や物理的対策)で事前に封じ込めている」と安心できるロジックを、先回りしてマニュアルに叩き込むのだ。
審査基準とは、彼らを説得するためのマニュアルではない。彼らの「不安」を特定し、論理とデータで「安心」へと変換するための「プロファイリング・ツール」なのである。
それでは、第9回の後半(Part 2)を展開しよう。 審査要領に散りばめられた「適切に」という抽象的なキラーワードを法学的にどう解読し、それを審査官を沈黙させる「物理的エビデンス」へとどう変換するか。その冷徹なメカニズムと実務戦術を解剖する。
3. 審査要領のキラーワード「適切に」の法的翻訳術
行政手続法第5条第2項は、行政庁に対して「審査基準を定めるに当たっては、許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」と命じている。
にもかかわらず、「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」をめくれば、「適切な飛行経路を特定すること」「状況に応じて必要な措置を講じること」といった、全く具体的ではない抽象的な文言が平然と並んでいる。
なぜか。それは、千差万別のドローン機体、複雑極まりない気象条件、そして多種多様な運用環境のすべてを網羅する「絶対的な数値基準(風速〇m/sまで、離隔距離〇mなど)」を、国が責任を持って設定することが不可能だからだ。
プロは、この「適切に」という言葉を次のように翻訳する。 「私(審査官)には、あなたの現場における絶対安全な数値を決める知識も責任を負う覚悟もありません。だから、あなたが独自に『適切な数値』を定義し、それが安全であることを客観的データで証明して、私を安心させてください」
つまり「適切に」とは、役人からの「立証責任の丸投げ」である。
多くの実務家は、この丸投げに気づかず、マニュアルに「適切に確認します」とオウム返しで書いてしまう。結果、審査官から「あなたの言う『適切』とは何ですか? 具体的に書いてください」と補正指示を食らう。
審査要領を読み解くメカニズムの核心は、「抽象的な要求(適切に)」を、「定量的な閾値(数値)」と「それを担保するシステム的・物理的根拠(保証の水準)」に変換(翻訳)して提出することである。これができれば、審査官は「この事業者は自ら厳しい基準を設定し、エビデンスでそれを証明している。万が一事故が起きても、『事業者が設定した精緻な安全基準を審査した結果、妥当と判断した』と言い訳できる」と安心し、喜んで決裁印を押すのである。
4. 「抽象」を「物理的エビデンス」で斬り伏せるマニュアル構築
では、この翻訳メカニズムを、実際の独自マニュアルや追加基準適合性を示す書類にどう落とし込むか。審査要領の文言を論破し、審査官に一切の反論を許さない記載例を提示する。
実務戦術1:「天候の確認」という曖昧な要求の数値化
審査要領では、飛行前の確認事項として「気象状態等の確認」が求められる。
【NG例(抽象的なコピペ)】 「飛行前に天候を確認し、強風等の悪天候が予想される場合は適切に飛行を中止する。」
【OK例(役人の本音を先回りした定量的立証)】 「本運航における『悪条件』の定量的な閾値を以下の通り設定する。機体メーカーが保証する最大耐風性能(10m/s)に対し、安全マージンを考慮して『風速5m/s』を運航限界とする。飛行前および飛行中は、現場に設置した風速計によりリアルタイムで気象データを監視し、突風を含め5m/sを超過した場合はシステムアラートにより即座にミッションを中止し、あらかじめ設定した緊急着陸ポイントへ自動帰還(RTH)させる手順を構築している。」
「適切に」を「風速5m/s」という物理的数値に置き換え、「確認する」を「現場の風速計によるリアルタイム監視と自動帰還」というシステム(保証の水準)に置き換えている。審査官がこれに口を挟む余地はない。
実務戦術2:「代替的な安全対策」の工学的証明
審査要領の別記様式等において、一部の基準を満たさない機体を使用する場合、「代替的な安全対策等を記載し、航空機の航行の安全並びに地上及び水上の人及び物件の安全が損なわれるおそれがないことを説明すること」と求められる。
ここでも「気を付けて操縦します」という属人的な説明は即座に却下される。
【高難易度申請における代替措置の立証例】 「本機体は審査要領〇〇の機能を有していないが、そのリスクを完全に相殺する代替的な安全対策として以下の措置を講じる。
- フェイルセーフのシステム的担保: 操縦装置と機体間のC2リンクが途絶した場合、機体は〇秒以内に自動的にホバリングへ移行し、その後〇秒経過で安全な高度を維持したまま離陸地点へ自動帰還するプログラムを実装している。この機能の確実な作動は、別紙の飛行試験ログ(通信遮断テスト結果)により証明される。
- 逸脱防止の物理的遮断: 第三者上空への逸脱(フライアウェイ)を防止するため、国土地理院の座標データに基づく3Dジオフェンスをフライトコントローラーに設定する。これにより、操縦者のヒューマンエラーが発生しても、機体は物理的に設定空域外へ出ることはない。」
審査官の本音は「この機体が暴走して人に当たったらどうするのか」である。それに対して「通信ログという証拠」と「ジオフェンスという物理的壁」を突きつけることで、彼らの不安を論理的に完全に包囲するのだ。
行政手続法上の「審査基準」である審査要領は、絶対の法律ではない。それは、役人の不安のリストである。その行間に隠された「責任逃れの本音」を読み解き、彼らが欲しがる「言い訳のための完璧なデータ(セーフティ・ケース)」を先回りして差し出すこと。
これこそが、不可能と言われる高難易度の飛行許可を、最短最速で合法的に奪い取るための究極のリーガル・ハックなのである。


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