空間の法をデザインする:「空間法務」と「リーガルエンジニアリング」という思想
2026年の春、私はある行政との折衝の席で、奇妙な断絶を目撃した。
テーブルの一方には、大型ドローンで重量物を運ぶ計画を抱えた事業者がいた。もう一方には、航空法と道路法の条文を丁寧になぞる担当官がいた。双方とも誠実だった。しかし会話は噛み合わなかった。事業者が「安全に飛ばせます」と言うたびに、担当官は「それを証明してください」と繰り返した。
誰も悪くない。ただ、両者の間に立って翻訳できる人間がいなかっただけだ。
私はその場で、自分がずっと探していたものの輪郭を、ようやく言語化できた気がした。
土地から空間へ
思えば人類の法体系は、長い時間をかけて「平面」のために精緻化されてきた。所有権は土地の境界線に沿って確定し、不動産価値は地名と路線価に縛られ、紛争は「誰の土地か」を巡って争われてきた。私が長年携わってきた不動産M&Aの世界でも、本質的にはその2次元的な論理が支配していた。
しかし、ドローンが空を飛び、eVTOLが都市上空を行き交う時代が現実のものになりつつある今、その平面的な法律の地図は、急速に白紙化されようとしている。
タワーマンション上空の通過権はどう定義されるか。低周波騒音の受忍限度はどこまでか。墜落時の損害賠償責任は、機体メーカー、オペレーター、飛行経路を認可した行政の間でどう分配されるのか。これらは既存の航空法でも民法でも、今のところ満足に答えられない問いだ。
私はこの領域を「空間法務」と呼ぶことにした。造語である。しかしあえて名前をつけた理由がある。名前のない問題は、解決の土俵にも上がれないからだ。
物理学が法律を補完する場所
行政書士として許可申請に携わるようになって気づいたことがある。お役所が本当に求めているのは「丁寧な言葉」ではなく「反論できないデータ」だということだ。
大型ドローンの飛行許可を取るためには、「十分注意して飛ばします」という文学的な誓約は何の意味も持たない。機体の慣性モーメントはいくらか。30m/sの突風を受けたとき、姿勢制御系はどのベクトルで力を分配するか。最悪の場合の落下エネルギーは何ジュールで、地上の人間への危害はどう抑制されるか——こうした物理学の言語で安全性を「証明」して初めて、担当官は書類に押印できる。
私は学生時代、応用物理学を専攻した。その後、法律と財務、そして技術経営(MOT)へと守備範囲を広げてきた。振り返れば、そのすべてが今この瞬間のためにあったと思えるほど、これらの知識は「空間法務」の実践において有機的に結合する。
物理という客観的な真理を、法律という主観的な規範に翻訳し、行政が受理できる形式に落とし込む。この一連の作業を私は「リーガルエンジニアリング」と呼んでいる。
言葉を所有することの意味
誰も使っていない言葉を掲げるのは、一種の賭けだ。
しかしそれは冷静な計算でもある。2〜3年後、空の産業が本格的に拡大したとき、法的整理を必要とする事業者や自治体が爆発的に増える。そのとき「空間法務」というキーワードで検索された先に、私のドメインに積み上げた数百の専門記事が待ち構えている状態を作れるかどうか——それが今、私が黙々とコンテンツを積み上げている理由だ。
AIがどれほど進化しても、「まだ存在しない市場の輪郭を先に描く」という行為は、人間にしかできない。私はこのエッセイを、その営みの記録として残しておきたい。


コメント