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ドローンの法律学シリーズ第6回:【空域の公法的な定義】 航空管制圏、DID、高度150m:空を仕切る「見えない壁」の構造

2026 2/26
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ドローン
2026年2月26日
ドローンの飛行禁止区域
目次

1. 【課題提示】 目視で確認できない「空の境界」が引き起こす、無自覚な犯罪と事業停止の悪夢

ドローンの運航現場において、操縦者が空を見上げても、そこには道路のような白線も、立ち入りを禁じるフェンスも存在しない。無限に広がる自由な空間に見えるだろう。しかし、法学的な視点から見れば、日本の空は航空法という極めて厳格な「見えない壁」によって、何重にも切り刻まれ、統制されている。

「現場に行ってみたら山奥で誰もいなかったから、DID(人口集中地区)ではないと判断した」 「手元のドローンアプリのマップでは飛行禁止エリアの表示が出ていなかったから飛ばした」 「足元の地面からではなく、海抜で高度を計算して150m未満だと思った」

実務の最前線において、このような「個人の感覚」や「非公式なツール」に依存した空域判断が横行している。しかし、これらの判断はすべて法的根拠を欠いており、ある日突然、事業の命運を絶つ致命的な事態を招くことになる。

警察や航空局の審査官は、現場の「見た目」やあなたの「思い込み」を一切評価しない。彼らが基準とするのは、国家が定めた厳密な「公法的定義」と「データ」のみである。もしあなたが、この見えない壁の存在と正確な座標を把握せずにドローンを離陸させたならば、その瞬間に航空法第132条の85に違反する「無許可での特定飛行」が成立する。

無許可での特定飛行は、単なる行政指導では済まされない。最大50万円の罰金という刑事罰の対象となり、警察による捜査や機体の押収が行われる可能性すらある。企業のコンプライアンスとしては致命的であり、クライアントからの契約打ち切り、莫大な損害賠償請求、そしてその後の航空局へのあらゆる申請が「要注意案件」として厳格化されるという、取り返しのつかないペナルティを背負うことになる。

空を飛ぶ以上、私たちは地上ではなく「空の法律」に従わなければならない。「知らなかった」という弁明は、法治国家においてはいかなる防御の盾にもならないのである。

2. 【解決の武器】 空域を統制する「公法的定義」の完全なる掌握

この無自覚な法令違反の罠から逃れ、逆に審査官から確実な許可を勝ち取るための武器。それは、航空法第132条の85第1項に規定される「飛行の禁止空域」の、厳格な法的定義を完全に掌握することである。

航空法は、航空機の航行の安全や、地上の人・物件の安全を損なうおそれがあるとして、以下の空域でのドローン飛行を原則禁止している。

  • 空港等の周辺の空域(第1号):進入表面や転移表面など、有人航空機の離着陸に不可欠な保護空域。
  • 高度150m以上の空域(第1号):地表又は水面から150m以上の高さの空域(地上又は水上の物件から30m以内の空域を除く)。
  • 緊急用務空域(第1号):警察や消防等の航空機が活動するために、突発的かつ特例的に指定される空域。
  • 人又は家屋の密集している地域の上空(第2号):いわゆるDID(人口集中地区)。

真のリーガル・プロフェッショナルは、これらの空域を単なる「禁止エリア」として恐れることはない。これらは「国家がどのようなロジックで空の危険を評価しているか」を示すパラメータに過ぎないからだ。

「安全確保措置検討のための無人航空機の運航リスク評価ガイドライン(RTF-GL-0006)」において、空域の把握は「空中リスク(ARC)」や「地上リスク(GRC)」を算定するための最も基本的なステップ(Step#2、Step#3)として位置付けられている。

つまり、これらの空域の公法的な定義を1cmの狂いもなく正確に理解し、自身の飛行計画が「どの壁に抵触しているのか」あるいは「どの壁を合法的に回避しているのか」を客観的データで立証できれば、審査官はあなたの空間認識能力を疑うことができなくなる。空域の法理を支配する者だけが、審査官の裁量権を封じ、自由な飛行許可という果実を手にすることができるのだ。

3. 【メカニズムの解説】 空を切り裂く「4つの見えない壁」の幾何学と法理

航空法第132条の85に基づく「飛行の禁止空域」は、決して曖昧なものではない。国土交通省や警察庁の担当官が依拠しているのは、センチメートル単位で計算される「データ」と「公法的な座標」である。これらを完璧に理解しなければ、彼らと対等に渡り合うことはできない。

3-1. DID(人口集中地区):現場の「見た目」を無効化するデータ絶対主義

最も身近でありながら、最も誤解されているのがDID(人口集中地区)である。 航空法第132条の85第1項第2号は「人又は家屋の密集している地域の上空」での飛行を禁じている。そして、この地域の定義について、航空法施行規則第236条の72は「国土交通大臣が告示で定める年の国勢調査の結果による人口集中地区」と明確に規定している。

ここには「現場に実際に人がいるかどうか」という要件は一切存在しない。あなたが早朝の河川敷や、過疎化して空き家ばかりの集落に立ち、「周囲に誰もいないから安全だ」と判断したとしても、行政上は何の意味も持たない。国勢調査のポリゴンデータがそこをDIDと指定していれば、それは法的に「人や家屋が密集している地域」として扱われる。この「データ絶対主義」を理解せず、現場の主観で空域を判断することは、自ら航空法違反の証拠を作り出す自殺行為に等しい。

3-2. 高度150m以上の空域:相対高度の罠と「30mの例外」

航空法施行規則第236条の71第1項第5号により、「地表又は水面から150m以上の高さの空域」は原則飛行禁止(特定飛行)となる。ここで実務家が陥る罠は「高度」の定義である。

航空法がドローンに適用する高度とは、海抜高度ではなく「機体の直下にある地表又は水面からの相対高度」である。例えば、谷間や崖の上からドローンを水平に飛ばした場合、機体自身の高度は変わらなくとも、地表が急激に下がることで、相対高度が一瞬にして150mを超えるケースがある。これを「知らなかった」では済まされない。

しかし、法は同時に強力な「例外」も用意している。同規則には「地上又は水上の物件から30m以内の空域を除く」と明記されている。すなわち、高さ200mの鉄塔や煙突の点検を行う場合、その構造物から30m以内の空間に留まっている限り、高度150mを超えても「高度150m以上の空域」の規制は適用されないのである。この例外規定を駆使することで、不要な高難易度申請を回避し、合法的に超高層インフラの点検を完遂することが可能となる。

3-3. 空港等の周辺空域:制限表面という名の「3Dの壁」

空港等の周辺空域(航空法施行規則第236条の71第1項第1〜3号)の規制は、平面の地図だけで理解することは不可能である。空港の周囲には、航空機が安全に離着陸するために「進入表面」「転移表面」「水平表面」等と呼ばれる、すり鉢状の複雑な「制限表面(3Dの壁)」が設定されている。

例えば、滑走路の延長線上にある「進入表面」は、滑走路から離れるほど段階的に飛行可能な高度が上がっていく。つまり、空港から1km離れた場所と2km離れた場所では、ドローンが合法的に飛べる限界高度が全く異なるのだ。さらに、主要な国際空港などでは、進入表面や転移表面の下の空域すらも全面的に飛行禁止となる厳しい規制が追加されている。 実務においては、国土地理院の地図データや空港管理者が公開している制限表面の勾配(50分の1等)の数値を照らし合わせ、自身の飛行計画がこの「3Dの壁」の下に収まっていることを数学的に立証しなければならない。

3-4. 緊急用務空域:突発的に出現する「絶対不可侵領域」

航空法施行規則第236条の71第1項第4号に規定される「緊急用務空域」は、他の空域とは性質が根本的に異なる。これは、大規模な火災や災害が発生した際、警察や消防、自衛隊のヘリコプター(有人航空機)の安全を確保するために、国土交通大臣が「突発的」に指定する空域である。

この空域が指定された瞬間、当該エリアにおけるドローンの飛行は、たとえ事前に国土交通大臣の許可・承認を得ていようとも、例外なく一切禁止される(100g未満の模型航空機も同様である)。 したがって、事業者は飛行の直前に必ず国土交通省の公式Twitter等で緊急用務空域の指定有無を確認する義務を負い、飛行中に指定された場合は即座に機体を着陸させなければならない。このシステムを理解していない運航体制は、審査官から「安全管理能力が欠如している」と見なされる。

それでは、第6回の最終パート(Part 3)である「## 4. 【実務への落とし込み】」を展開しよう。 これまで解剖してきた「空の見えない壁(公法的定義)」を、実際のDIPS2.0(ドローン情報基盤システム)での申請手続きや独自マニュアルにどう実装し、審査官を法的に沈黙させるか。その冷徹な構築論理を提示する。

4. 【実務への落とし込み】 「データ」と「座標」で構築する、反証不可能な空域証明

空域の公法的定義と立体的な幾何学構造を理解したならば、それを実際の申請書(DIPS2.0)や独自マニュアルの記載へと昇華させなければならない。

多くの実務家は、DIPS2.0の申請画面において「飛行空域」のチェックボックス(DID、150m以上、空港周辺等)を、システムに言われるがまま漫然とクリックする。しかし、審査官はあなたのクリックの背後にある「空間認識の解像度」を冷徹に見定めている。曖昧な空域認識は、「自らの飛行範囲がどのような法的制限を受けているか理解していない」という自白に等しく、補正地獄への直行便となる。

審査官の裁量を封殺し、「許可せざるを得ない」と決裁印を押させるためには、以下の戦術を申請書類とマニュアルに組み込む必要がある。

1. 審査要領が求める「絶対的座標(緯度経度・海抜高度)」の提示

「無人航空機の飛行に関する許可・承認の審査要領」を熟読せよ。同要領では、「空港等の周辺」や「地表若しくは水面から150m以上の高さの空域」を飛行させる理由を記載する際、単なる平面図だけでなく「緯度経度(世界測地系で秒単位)による飛行範囲」および「海抜高度(上限・下限)」の明記を厳格に求めている。

すなわち、「だいたいこの山からこの鉄塔まで飛びます」「対地高度140mくらいです」といった主観的な記述は法的に無価値である。

【独自マニュアルへの記載例:150m以上の空域申請の場合】

 「本飛行は、地形の起伏により地表からの高度が局所的に150mを超える特定飛行に該当する。これを安全に遂行するため、国土地理院の標高データに基づき、対象エリアの最高標高(〇〇m)に想定最大飛行高度(〇〇m)を加算した『海抜高度〇〇m』を飛行の上限高度として設定する。また、飛行範囲は緯度〇度〇分〇秒、経度〇度〇分〇秒を頂点とするポリゴン内に厳格に制限し、機体のジオフェンス機能により逸脱をシステム的に遮断する。」

このように、地球上の絶対的な座標と、標高データをベースにした数学的な「海抜高度」を突きつける。これにより、審査官はあなたの空間認識の正確性を疑う根拠を完全に失うのだ。

2. 「管轄(申請先)」の正確なトラップ回避

空域の法的性質を理解していることを示す最大の証明は、「誰に許可を求めるべきか(申請先)」を間違えないことだ。

DID(人口集中地区)や夜間、目視外といった飛行の申請先は、原則として申請者の住所を管轄する「地方航空局長(東京または大阪)」である。しかし、「高度150m以上の空域」および「空港等の周辺」に関するカテゴリーⅡ飛行の申請先は、地方航空局ではなく「東京空港事務所長」または「関西空港事務所長」となる。

さらに、空港周辺で夜間飛行を行うような複合的なケースでは、同一の申請書を「空港事務所」と「地方航空局」の双方に提出しなければならない場合もある。この管轄の法的切り分けを理解せず、150m以上の飛行申請を漫然と地方航空局へ送るような事業者は、「空域の法理を全く理解していない」として一蹴されることになる。

3. 動的空域(緊急用務空域・民間訓練試験空域)への対応プロセス実装

最後に、最も見落とされがちな「突発的に現れる壁」への対応である。

「緊急用務空域」や自衛隊等の「民間訓練試験空域」は、事前のDIPS申請だけでは回避できない。これらは当日の状況によって動的に指定・運用されるからだ。したがって、許可を得た後の「現場の運用体制(M3:緊急事態対応計画に相当)」の中で、これらの空域の確認プロセスが構築されていることを証明しなければならない。

【独自マニュアルへの記載例:動的空域の確認プロセス】 「本運航においては、飛行開始の直前(〇分前)に、運航管理者が国土交通省の公式X(旧Twitter)および航空情報(NOTAM)を確認し、『緊急用務空域』の指定有無を記録する。万が一、飛行中に当該空域が指定された場合は、即座に当該空域から機体を退避させるか、あらかじめ設定した安全な着陸地点(緯度・経度〇〇)へ緊急着陸させる手順を構築している。また、対象空域が民間訓練試験空域と重複する場合、事前に航空交通管理センターと所定の調整を行い、その指示条件を厳守して飛行を実施する。」

役人が恐れる「有人航空機(警察ヘリやドクターヘリ)との空中衝突」という最悪のシナリオに対し、「システム確認」と「即時着陸」という明確なアクションプランを提示する。

空を支配する「見えない壁」は、決してあなたを拒絶するためにあるのではない。その壁の座標を正確に読み取り、法律の言語で記述し直したとき、それは審査官の裁量権を完封し、確実な許可を勝ち取るための「最強の盾」へと変わるのである。

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  1. ドローンの法律学シリーズ第2回:【航空法第1条】法の目的「公共の福祉」を逆手に取り、飛行の正当性を主張する
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  4. 【ドローン用語】DID(人口集中地区)

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