ご家族が亡くなり、相続手続きを進めようとしたとき、「出生から死亡までの戸籍を集めてください」と言われ、戸惑った経験はありませんか?さらに、『除籍謄本(じょせきとうほん)』や『改製原戸籍謄本(かいせいげんこせきとうほん)』といった聞き慣れない書類の提出を求められ、何が何だかわからない、という方も少なくないでしょう。
これらの古い戸籍は、あなたが知らない相続人の存在を明らかにし、法的に有効な遺産分割を行うために不可欠な「過去への鍵」です。この記事では、なぜこれらの複雑な戸籍が必要なのか、それぞれの書類が持つ意味、そして具体的な収集方法から活用法まで、専門知識がない方にも理解できるよう、具体例を交えながら徹底的に解説します。

第1章 相続手続きの基礎:3つの主要な戸籍を理解する
相続手続きを開始するにあたり、まず「戸籍」という言葉が何を指すのか、そしてその種類を正確に理解することが不可欠です。戸籍には、現在効力を持つもの、役目を終えて閉鎖されたもの、そして法改正によって過去の形式として保管されているものがあります。これら3つの戸籍の役割を把握することが、相続人確定への第一歩となります。
1.1 「現在の戸籍」:戸籍謄本(こせきとうほん)- 今の家族の姿を映す証明書
「戸籍謄本」は、現在有効な戸籍に記載されている全員の身分関係を証明するものです 1。コンピュータ化された市区町村では「戸籍全部事項証明書」という名称で発行されます 2。この戸籍は、一般的に「夫婦とその未婚の子」を一つの単位として構成されており、相続手続きにおいては、まず故人(被相続人)の最後の戸籍謄本を取得することから調査が始まります 1。
この書類は、現在の家族構成や、その戸籍内で最近発生した出生、死亡、婚姻といった身分変動を証明します。
なお、「謄本(とうほん)」と「抄本(しょうほん)」の違いを理解することも重要です。謄本は戸籍に記載されている「全員」の写しであるのに対し、抄本は「一部の人」だけの写しです 2。被相続人の相続人を確定するためには、その人の一生を通じた身分関係のすべてを明らかにする必要があるため、必ず「謄本」を取得しなければなりません。一方で、生存している相続人が自身が相続人であることを証明するだけであれば、「抄本(個人事項証明書)」で十分な場合もあります 5。
1.2 「閉鎖された戸籍」:除籍謄本(じょせきとうほん)- 一つの家族の物語の完結を記す記録
「除籍謄本」とは、その戸籍に記載されていた全ての人が、死亡、婚姻、転籍などによって戸籍からいなくなり、結果として戸籍全体が閉鎖された状態の記録を写したものです 7。誰も在籍しなくなった戸籍は「除籍簿」として保管され、その写しが除籍謄本として発行されます 9。
戸籍が閉鎖される主な理由は、以下のような身分事項の変動です。
- 死亡: 戸籍に記載されている全員が亡くなった場合。
- 婚姻・養子縁組: 子どもが全員婚姻や養子縁組で他の戸籍に移り、最後に残った親が亡くなった場合。
- 転籍: 家族全員で本籍地を他の市区町村へ移した場合。この場合、古い本籍地の戸籍は除籍となり、新しい本籍地で新しい戸籍が作られます。
相続手続きにおいて、この除籍謄本は極めて重要です。例えば、被相続人が生涯のうちに本籍地をA市からB市へ移していた場合、A市で発行される除籍謄本がなければ、A市に本籍があった時代の身分関係(例えば、A市にいた頃の婚姻や子の出生など)を証明できず、記録が途切れてしまいます。除籍謄本は、過去の記録と現在の記録を繋ぎ合わせるための重要な鎖の役割を果たします 12。
1.3 「過去の様式の戸籍」:改製原戸籍謄本(かいせいはらこせきとうほん)- 法律の変遷を映す歴史の窓
「改製原戸籍謄本」は、死亡や婚姻といった個人の身分変動ではなく、戸籍法そのものの改正によって戸籍の様式や編成基準が変更された際に、新しい様式に書き換えられる前の古い戸籍の写しを指します 7。
これは、企業が文書管理システムを刷新した際に、古い形式のファイル(例:.doc)を新しい形式(例:.docx)に変換し、古いファイルを「原本(アーカイブ)」として保管するのに似ています。古い戸籍はもう actively には使われませんが、その歴史的な情報を証明するために「原戸籍(はらこせき)」として保存されているのです 16。
重要な点は、改製原戸籍も「閉鎖された戸籍」であるため、広義には除籍の一種と見なせることです 14。しかし、その閉鎖理由が法改正という制度的なものであるため、個人の事情で閉鎖される除籍とは区別して「改製原戸籍」と呼ばれています。この違いを理解することが、なぜこの書類が存在し、必要とされるのかを解明する鍵となります。
表1:主要な戸籍関連書類の比較
書類名 | 戸籍の状態 | 主に証明する情報 | 一般的な様式 | 手数料(1通) |
---|---|---|---|---|
戸籍謄本 | 有効(現在使用中) | 現在の家族構成員の身分関係 | A4サイズ・横書き(コンピュータ化後)19 | 450円 3 |
除籍謄本 | 閉鎖(全員の離籍による) | 特定の場所・時点における家族構成の確定と、その戸籍が閉鎖された事実 | 近年のものはA4・横書きだが、古いものはB4・縦書き、手書きの場合もある 24 | 750円 22 |
改製原戸籍謄本 | 閉鎖(法改正による) | 過去の法律の枠組みにおける家族関係(例:戸主との続柄など) | ほとんどがB4サイズ・縦書き、手書きやタイプライター印字 8 | 750円 17 |
第2章 相続の根幹:なぜ「出生から死亡まで」の戸籍が不可欠なのか
戸籍の種類を理解した次に浮かぶ疑問は、「なぜ相続手続きでは、被相続人の『出生から死亡まで』の連続した戸籍すべてを集めなければならないのか」という点です。これは単なる形式的な要求ではなく、相続という法律行為の根幹に関わる絶対的な要請です。
2.1 法的な絶対要請:法定相続人を一人も漏らさず確定する
相続手続きにおいて「出生から死亡までの戸籍」を収集する最大の目的は、法律で定められた相続権を持つ人物(法定相続人)を、一人たりとも漏らすことなく、公的に確定させるためです 5。
もし、法定相続人が一人でも欠けた状態で行われた遺産分割協議は、法律上「無効」となります 28。これは、その協議に基づいて行われた銀行預金の解約や不動産の名義変更などもすべて無効となり、手続きを最初からやり直さなければならないことを意味します。このような事態を避けるため、完璧な相続人のリストアップが絶対的に必要とされるのです。
2.2 あなたが知らない相続人:過去の出来事が現在の相続に与える影響
現在の戸籍謄本は、その人の人生のすべてを記録したものではなく、あくまで「現時点でのスナップショット」に過ぎません。戸籍の制度上、結婚や転籍、あるいは法改正によって新しい戸籍が作られる際、それ以前にその戸籍から抜けていた人物に関する情報は、新しい戸籍には引き継がれない(移記されない)ことが多くあります 8。
この仕組みが、現在の戸籍だけでは見えない「情報の空白期間」を生み出します。この空白を埋め、隠れた相続人がいないかを調査するためには、過去に閉鎖された除籍謄本や改製原戸籍謄本を遡って収集する以外に方法はありません。つまり、相続における戸籍収集とは、戸籍制度が効率化のために意図的に作り出した情報の断片をつなぎ合わせ、一人の人間の人生における身分関係を法的に復元する作業なのです。
【「隠れた相続人」の具体例】
- 前婚の子: ある男性が離婚し、その後再婚して新しい家庭を築いたとします。彼の現在の戸籍謄本には、現在の妻と、その妻との間に生まれた子しか記載されていません。しかし、法律上、前の妻との間に生まれた子も同等の相続権を持つ法定相続人です。この子の存在は、離婚前の古い戸籍(除籍謄本や改製原戸籍謄本)を確認して初めて明らかになります 27。
- 認知した子: 婚姻関係にない女性との間に生まれた子であっても、父親が法的に「認知」していれば、その子は相続権を持ちます。認知の事実は戸籍に記載されますが、転籍や法改正で戸籍が新しくなると、その記載が引き継がれない場合があります。この場合も、古い戸籍を遡ることで初めて認知した子の存在が判明します 17。
- 養子: 養子縁組をした子は、実子と全く同じ相続権を持ちます。養子縁組の事実が、古い改製原戸籍にしか記載されていないケースも少なくありません 27。
2.3 社会の門番:金融機関や法務局が完璧な戸籍を要求する理由
銀行、証券会社、そして不動産の名義変更を管轄する法務局は、相続手続きにおける「門番」の役割を担っています。彼らが「出生から死亡まで」の完璧な戸籍一式を要求するのは、自らを法的なリスクから守るためです 6。
もし、相続人が一人でも漏れている不完全な情報に基づいて預金を払い戻したり、不動産の所有権を移転したりした場合、後から現れた本当の相続人から損害賠償請求をされる可能性があります。このような事態を避けるため、彼らは完璧な公的証明、すなわち「出生から死亡までの戸籍」一式を要求するのです。
この書類一式は、事実上すべての主要な相続手続きで必須となります。
- 遺言書の検認 25
- 相続税の申告 25
- 預貯金の解約・名義変更 6
- 不動産の相続登記 25
- 生命保険金の請求 6
- 相続放棄の申述 25
第3章 具体的なケースで見る:除籍謄本・改製原戸籍謄本が必要となる場面
理論を理解した上で、次にどのような具体的な状況でこれらの古い戸籍が必要になるのかを、歴史的な背景と複雑な家族構成の事例を通じて見ていきましょう。
3.1 日本の二大戸籍改革がもたらした影響
日本の戸籍制度は、時代に合わせて大きな改正を経験してきました。特に相続に大きな影響を与えるのが、戦後の二つの大きな改革です。
昭和32年の法改正:多世代の「家」から「核家族」へ
- 歴史的背景: 昭和22年の民法改正に伴い、昭和32年の法務省令によって戸籍の編成基準が大きく変わりました。それまでの戸籍は、戸主を中心とした多世代にわたる「家」を単位としており、一つの戸籍に祖父母、親、子、孫、さらには叔父や甥姪まで記載されることがありました 17。
- 「昭和改製原戸籍」が必要な理由: もし被相続人が、この法改正が各市区町村で実施された時期(おおむね昭和32年~40年頃)より前に生まれている場合、その方の出生記録はこの古い「家」単位の戸籍に記載されています。この「昭和改製原戸籍」を取得することで、被相続人の正確な両親を確定し、その時代の兄弟姉妹の存在を明らかにすることができます。これは後に兄弟姉妹が相続人となるケースで特に重要となります 17。
平成のコンピュータ化:書き換えで「取り残された」重要情報
- 歴史的背景: 平成6年の法改正により、それまで紙で管理されていた戸籍をコンピュータで記録・管理することが可能になりました。各市区町村がコンピュータ化した時期はバラバラで、平成初期から2010年代まで幅があります 17。
- 決定的な影響: このコンピュータ化の際、紙の戸籍から電子データへ情報を移し替える作業が行われましたが、その時点で既に死亡、婚姻、離婚などによって戸籍から除かれていた人物に関する情報は、原則として新しいコンピュータ戸籍には移記(転記)されませんでした 17。
- 「平成改製原戸籍」が必要な理由: これが、今日において改製原戸籍が必要となる最も一般的な理由です。被相続人が、その本籍地の市区町村がコンピュータ化される「前」に、離婚、子の認知、養子縁組といった重要な身分変動を経験していた場合、その事実を証明する記録は、コンピュータ化される前の紙の戸籍、すなわち「平成改製原戸籍」にしか存在しないのです 17。
3.2 複雑な家族構成を解き明かす
相続は、必ずしも配偶者と子といった単純な構成で発生するわけではありません。家族構成が複雑な場合、必要となる戸籍の範囲は格段に広がります。
ケーススタディ1:兄弟姉妹が相続人になる場合(兄弟姉妹相続)
- 法律上の条件: 被相続人に子や孫などの直系卑属(第1順位)がおらず、かつ、親や祖父母などの直系尊属(第2順位)も全員亡くなっている場合に限り、被相続人の兄弟姉妹(第3順位)が相続人となります 27。
- 証明の範囲の拡大: この条件を満たしていることを証明するためには、膨大な戸籍の収集が必要となります。
- 被相続人自身の「出生から死亡まで」の戸籍一式:子がいないことを証明するため 45。
- 被相続人の「両親それぞれ」の「出生から死亡まで」の戸籍一式:両親が亡くなっていることを証明し、かつ、腹違い・種違いの兄弟姉妹(異父母兄弟)を含めたすべての兄弟姉妹を特定するため 27。
- もし両親が若くして亡くなっている場合は、祖父母の死亡が記載された戸籍:生存している直系尊属がいないことを証明するため 45。
このケースでは、調査対象が被相続人一人だけでなく、その両親にまで広がり、複数の人間の人生を戸籍で遡る必要があるため、手続きの複雑さが飛躍的に増大します。
ケーススタディ2:代襲相続が発生する場合
- 法律上の条件: 本来相続人となるはずだった子(または兄弟姉妹)が、被相続人よりも先に亡くなっている場合、その亡くなった人の子が代わりに相続権を引き継ぎます。これを「代襲相続」と呼びます 5。
- 証明の連鎖: 代襲相続を証明するには、一連の事実関係を戸籍で繋げる必要があります。
- 被相続人の戸籍:本来の相続人である子を特定する。
- 先に亡くなった子(被代襲者)の「出生から死亡まで」の戸籍一式:その子が亡くなっている事実と、その子の子(被相続人から見て孫)が誰であるかをすべて特定する。
- 代襲相続人である孫全員の「現在の戸籍謄本」:孫が生存していることを証明する 27。
表2:主な相続ケース別・必要書類チェックリスト
相続のケース | 証明すべき主要な事実 | 必須となる主な戸籍書類 | なぜそれが必要か |
---|---|---|---|
被相続人が昭和30年代前半以前の生まれ | 出生時の親や家族構成 | 昭和改製原戸籍 | 出生記録が古い「家」制度の戸籍に記載されているため。 |
被相続人にコンピュータ化以前の離婚・認知歴がある | 隠れた相続人(前婚の子など)の有無 | 平成改製原戸籍 | コンピュータ化の際に情報が新しい戸籍に移記されていないため。 |
被相続人が生涯で本籍地を移動している | 途切れない一生の身分関係の証明 | 以前の本籍地の除籍謄本 | 古い本籍地の記録と新しい本籍地の記録を繋げるため。 |
相続人が被相続人の兄弟姉妹である | 上位順位の相続人がいないこと、全兄弟姉妹の特定 | 被相続人の出生~死亡までの戸籍、両親の出生~死亡までの戸籍 | 最も広範囲の証明が求められ、特に異父母兄弟の特定に不可欠。 |
相続人である子が被相続人より先に死亡している | 本来の相続人の死亡と、その子(代襲相続人)の特定 | 先に亡くなった子の出生~死亡までの戸籍 | 孫が祖父母の財産を相続する権利(代襲相続権)を証明するため。 |
第4章 実践ガイド:戸籍一式を収集するための手順
相続に必要な戸籍の種類と場面を理解したところで、実際にこれらの書類をどのように集めるのか、その具体的な方法と注意点を解説します。
4.1 伝統的な方法:現在から過去へ「芋づる式」に遡る
これは、戸籍収集の最も基本的な方法です。
- まず、被相続人の最後の本籍地があった市区町村役場で、最新の戸籍謄本(死亡により除籍されていれば除籍謄本)を取得します 23。
- 取得した戸籍の「戸籍事項」欄などを確認します。そこには、その戸籍がいつ、どこから、どのような理由で作られたかが記載されています(例:「昭和〇年〇月〇日 〇〇市より転籍につき編製」「平成〇年〇月〇日 法務省令による改製につき編製」など)。
- その情報を基に、一つ前の本籍地があった市区町村役場に対して、その当時の戸籍(除籍謄本や改製原戸籍謄本)を請求します。
- この作業を、被相続人の出生が記録されている戸籍にたどり着くまで、繰り返し行います 12。
この方法は確実ですが、被相続人が生涯に何度も転籍している場合、全国各地の役所に個別に郵送請求などを行う必要があり、時間と手間がかかることがあります 13。
4.2 現代的な解決策:広域交付制度とその限界
- 画期的な新制度: 令和6年3月1日から始まったこの制度を利用すると、請求資格のある人は、本籍地がどこであっても、最寄りの市区町村役場の窓口で、本人や直系の親族の戸籍証明書(除籍謄本、改製原戸籍謄本を含む)をまとめて請求できるようになりました 6。
- 利用できる人: 請求できるのは、本人、配偶者、父母・祖父母(直系尊属)、子・孫(直系卑属)に限られます 28。
- 重要な利用制限: この便利な制度には、いくつかの重要な制限があります。
- 代理人による請求は不可: 弁護士や司法書士などの専門家や、親族であっても代理人として請求することはできません。必ず請求資格のある本人が窓口に出向く必要があります 22。
- 兄弟姉妹の戸籍は請求不可: この制度を使って、自分の兄弟姉妹の戸籍を取得することはできません。兄弟姉妹相続のケースでは、この点が大きな障壁となります 6。
- 窓口での請求のみ: 郵送での請求は受け付けられていません 28。
- 顔写真付き身分証明書が必須: マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなどの官公署発行の顔写真付き身分証明書が必ず必要です 28。
- 一部対象外の戸籍: コンピュータ化されていない一部の古い戸籍(改製不適合戸籍など)は、この制度の対象外となる場合があります 28。
広域交付制度は、親子間の単純な相続では絶大な効果を発揮しますが、その制限により、兄弟姉妹相続などの複雑なケースでは依然として伝統的な「芋づる式」での収集が必要となります。
4.3 請求手続きの基本:請求者、必要書類、費用
- 請求できる人(通常手続き): 配偶者や直系血族は、身分関係を証明できれば請求できます。兄弟姉妹や甥姪などが相続人として請求する場合は、自身が相続人であることを証明する他の戸籍などを提示し、正当な請求理由があることを示す必要があります 23。
- 必要書類(窓口・郵送): 請求書、請求者の本人確認書類、手数料(郵送の場合は郵便局で発行される定額小為替)、返信用封筒と切手などが必要です 23。
- 費用: 表1で示した通り、戸籍謄本は1通450円、除籍謄本と改製原戸籍謄本は1通750円です 22。出生から死亡までの一式を揃えると、5通から10通以上になることも珍しくなく、合計で数千円の費用がかかる場合があります 30。
4.4 記録が途絶えた場合:紛失・廃棄された戸籍への対処
- 保存期間: 戸籍の除籍簿や改製原戸籍の保存期間は、平成22年の法改正で150年に延長されましたが、それ以前は80年でした 8。そのため、法改正前に保存期間が満了し、正規に廃棄されている古い戸籍も存在します。
- 災害による消失: また、戦争による空襲や、関東大震災などの大規模な災害によって戸籍の原簿そのものが焼失・紛失している場合もあります 23。
- 対処法: 請求した戸籍が存在しない場合、市区町村役場は「廃棄証明書」や「焼失証明書」といった、戸籍を提供できない旨を証明する公式な書類を発行します 24。この証明書を金融機関や法務局に提出することで、戸籍の連鎖が途切れている理由を説明でき、手続きを進めることが可能です。
第5章 収集から活用へ:書類の活用法と専門家への相談
苦労して集めた戸籍一式は、相続手続きを円滑に進めるための強力な武器となります。その活用法と、手に負えない場合の選択肢について解説します。
5.1 手続きを簡略化する「法定相続情報一覧図」
- 制度の概要: 集めた「出生から死亡まで」の戸籍一式を法務局に提出すると、その内容に基づいて、誰が法定相続人であるかを一覧にまとめた公的な証明書「法定相続情報一覧図の写し」を発行してもらえます 12。
- 最大のメリット: 一度この一覧図を取得すれば、その後の手続きで、金融機関や証券会社、税務署など、複数の窓口に分厚い戸籍の束を何度も提出する必要がなくなり、この一枚の証明書で済むようになります。これにより、手続きが大幅に簡略化・迅速化されます 12。
- 活用のポイント: 戸籍収集という困難な作業を終えた後、その成果を最も効率的に活用するための重要な制度です。相続手続きを始める前に、まずこの一覧図の作成・取得を目指すことを強く推奨します。
5.2 専門家への依頼を検討する時:司法書士・行政書士の役割
- 専門家の権限: 司法書士や行政書士、弁護士といった国家資格を持つ専門家は、依頼者の代理として、職務上の権限で戸籍を請求する(職務上請求)ことが認められています 6。
- 依頼を検討すべきケース:
- 複雑な相続: 兄弟姉妹相続や数次にわたる代襲相続など、家族関係が複雑で、収集すべき戸籍の範囲が広大である場合。
- 時間がない: 平日に役所へ行く時間が取れない、あるいは多数の役所との郵送でのやり取りが負担である場合 13。
- 解読が困難: 古い戸籍は手書きの崩し字で書かれていることが多く、正確に読み解くのが難しい場合 23。
- 確実性を求める: 収集漏れや解釈の間違いがないか不安で、専門家による確実な調査を希望する場合。
ただし、前述の通り、専門家は新しい「広域交付制度」を利用できないため、直系親族間の単純な相続で、本人が窓口に行ける場合は、自身で手続きする方が迅速なケースもあります 28。状況に応じて、最適な方法を選択することが重要です。
結論:手続きの謎を解き、法的に確実な相続を実現する
相続手続きにおける「除籍謄本」や「改製原戸籍謄本」の収集は、決して形式的なお役所仕事ではありません。それは、相続権を持つ可能性のあるすべての人を洗い出し、誰一人として不利益を被ることのないよう、公平性と最終的な法的安定性を確保するために法律が要請する、不可欠な調査プロセスです。
このプロセスは、一見すると複雑で難解に感じられるかもしれません。しかし、一つ一つの書類がなぜ必要なのか、その背景にある「情報の空白を埋める」という論理を理解すれば、その道筋は明確になります。「何が」必要で、「なぜ」必要で、「どうやって」集めるのかを把握することで、相続という人生の重要な局面に、自信と確信を持って臨むことができるでしょう。そして、その先にある遺産の分配が、将来にわたって誰からも異議を唱えられることのない、法的に盤石なものとなるのです。

引用文献
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- 改製原戸籍、除籍謄本とは? – 相続戸籍相談センター, 8月 24, 2025にアクセス、 http://www.koseki-souzoku.com/201693367
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- 明治以降の戸籍の歴史 – 家系図職人, 8月 24, 2025にアクセス、 https://www.kakeizushokunin.com/history/
- 改製原戸籍とは何ですか。 – 小田原市, 8月 24, 2025にアクセス、 https://www.city.odawara.kanagawa.jp/faq/p06762.html
- FAQ よくある質問集 くらし・手続き – 下妻市, 8月 24, 2025にアクセス、 https://www.city.shimotsuma.lg.jp/faq.php?mode=detail&lc=1&c=39&code=310
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- 戸籍のコンピュータ処理が始まります – 岬町, 8月 24, 2025にアクセス、 http://www.town.misaki.osaka.jp/material/files/group/12/H250511koseki.pdf
- 相続等で前の戸籍が必要といわれたら – 苫小牧市, 8月 24, 2025にアクセス、 https://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/kurashi/jumin/koseki2/kosekijimu.html
- 原戸籍とは? 取り方や戸籍謄本との違い、相続に必要な場面を解説 – 遺産相続, 8月 24, 2025にアクセス、 https://souzoku.vbest.jp/columns/7917/
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